高齢者の下肢筋力測定にGymAwareを活用する
2020/05/13
アスリート以外へのスポーツ科学の活用方法
高齢者の下肢筋力測定にGymAwareを活用する
アスリートのウェイトトレーニングにおいて、 GymAwareやPUSHといった機器を用いて挙上速度を測定 することは、今日広く普及していますが、
こうした機器は、アスリートだけではなく、 高齢者のトレーニングや測定においても有効に活用されています。
今回は、高齢者の下肢筋力の測定評価として、 椅子からの立ち上がり速度を GymAwareを用いて測定された事例研究(※) をご紹介します。
岩手県久慈(くじ) 市では平成26年度から高齢者に対して歩行機能の保持・ 増進を目的とした運動プログラムを提供しています。
この運動能力プログラムの効果を検証する一環として、 八戸学院大学健康医療学部人間健康学科の研究者たちが、 女性高齢者9名(77.3±7.2歳)を対象として
10m最大歩行速度、開眼片足立ち、 ファンクショナルリーチと並んで、 GymAwareを用いた椅子からの立ち上がり速度を 5年間にわたって毎年1回測定しました。
● GymAwareを用いた椅子からの立ち上がり速度測定法
椅子からの立ち上がり速度は、 被験者の腰部に装着したベルトにGymAwareのケーブルを取 り付け、「用意、始め」 の合図で両膝が完全伸展するまでできるだけ素早く立ち上がり、
その後ゆっくり座位姿勢に戻ることを2回実施し、 立ち上がり動作中の平均速度の良い方の記録を採用しました。
● 高齢女性の椅子からの立ち上がり速度は0.4~0.5m/s
その結果、最大歩行速度は最初の2年間が1.5m/s、 続く3年間は1.6m/sで5年間ほとんど変化なく、
立ち上がり速度も、最初の年が、0.4±0.1m/s、 続く4年間はいずれも、0.5±0.1m/ sという値が安定的に示されました。
● 椅子からの立ち上がり速度は歩行速度やバランス能力と関係してい る
さらに運動能力間の相関係数を調べたところ、 椅子からの立ち上がり速度と最大歩行速度との間に、
有意な高い相関(r=0.836および0.700) が5回の測定のうち2回示され、
ファンクショナルリーチとの間にも有意な高い相関(r=0. 831および0.720)が2回示されました。
以上の事から、この論文の著者らは、「 歩行機能の保持増進のためには,下肢筋力の強化が必要であり,
その指標として立ち上がり速度を計測することが有効である」 と結論づけています。
〇 この研究から示唆されること
今回紹介した研究では、
最大歩行速度が1.5~1.6m/ sである70歳台後半の高齢女性における椅子からの立ち上がり速 度は、
0.4~0.5m/sであることが明らかにされました。
椅子からの立ち上がりに類似した動作であるスクワットについてア スリートを対象としたこれまでのVBTの実践と研究では、
0.5m/s よりも遅い速度は、 最大筋力を目的としたトレーニングの基準とされています。
この基準が70歳台後半の高齢女性にも当てはまると仮定すれば、 この研究で椅子からの立ち上がりが0.4~0.5m/ sであったということは、
自体重でできるだけ素早く全力で椅子から立ち上がるという動作を 行うことが、
最大筋力を高めていくためのトレーニングとなる可能性を示してい ます。
また、椅子からの立ち上がり速度が、 歩行速度やバランス能力と深い関係にあることが示されたことから 、
70歳台後半の高齢女性における歩行機能やバランス能力の保持・ 増進のための下肢筋力の指標として、
椅子からの立ち上がり速度をモニターすることが有効であると言え ます。
椅子からの立ち上がり速度は、 今回紹介したGymAwareだけではなく、 PUSHやBarSenseiでも測定することが可能です。
ぜひ、 エビデンスに基づいた高齢者の運動指導にこれらの測定機器をお役 立てください。
GymAware
※ 嶋崎綾乃、渡邉陵由、高嶋渉、吉田稔、工藤祐太郎、米内松司
「久慈市における介護予防運動プログラムの効果の検証」
八戸学院大学紀要、58、97-104、2019
齋藤朋弥
エスアンドシー株式会社 営業・企画
JATI-ATI、スポーツパフォーマンス分析スペシャリスト、NSCA-CSCS
龍谷大学スキー部トレーニングコーチ
長谷川裕
龍谷大学スポーツサイエンスコース教授
スポーツパフォーマンス分析協会会長
日本トレーニング指導者協会名誉会長
エスアンドシー株式会社代表