トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価 #22パワーとピーク速度についての誤解を解く

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トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価 #23パワーとピーク速度についての誤解を解く

2025/11/12

パワーとピーク速度についての誤解を解く

記事はJATI EXPRESS No.106に掲載のものです。

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パワーという言葉は日常的にも頻繁に使われている言葉で、力強さや勢いといった感覚が入り混じった内容を意味するときに使われる。しかし、確実に成果を上げるためのトレーニング指導においては、たとえ一般のクライアントに対してわかりやすく説明するつもりだったとしても、そうしたあやふやな言葉を使うことは、大きな誤解を招くことになる。だからこそトレーニング指導者は運動力学やスポーツ科学を正しく理解することに努め、指導に対してあいまいさを残してはならないのである。


 

1.パワーという言葉

 トレーニング指導者の間で、“パワー”という言葉ほどいい加減に(失礼!) 使われている言葉はほかに見当たらないといっても過言ではありません。

 パワーという言葉は日常的にも頻繁に使われている言葉で、力強さや勢いといった感覚が入り混じった内容を意味するときに使われ、パワフルというカタカナ英語もそのような運動やパフォーマンスを表現するときによく使われています。また、心理的に困難に打ち勝つ強い意志力を表すときにも用いられ、勇気や元気のように、人からもらったりあげたりするような気持ちの一種として使われることもあります。“パワー=力×スピードですから、スポーツで必要とされる大きな力を素早く発揮するためにはパワーを鍛える必要があります”という説明もよく聞かれます。

 しかし、運動力学やスポーツ科学を正しく理解し、確実に成果を上げるためのトレーニング指導においては、たとえ一般のクライアントに対してわかりやすく説明するつもりであったとしても、そうしたあやふやな言葉を使うことは、大きな誤解を招くことになります。自分自身のトレーニング指導に対してもあいまいさを残したままいつのまにか納得してしまわないためには、正確な理解が求められます。

 

2.本来のパワーとそのパフォーマンスにとっての意味

 本来の力学量としてのパワーの定義は仕事率です。ある物体に対して一定の方向になされた力とその力によって物体が移動した距離の積である仕事量を、それに要した時間で割って得られる仕事の効率です。

 これを力学の式で表すと、“パワー=力×距離÷時間”となり、“距離÷時間=速度”なので、“パワー=力×スピード”と変換できることから、スポーツパフォーマンスにおいて大きな力が高速で発揮される直観的なイメージと容易に結びついて、先のような説明がよく行われているようです。

 

スプリントにおけるパワー1)

 しかし、例えばスプリントにおいて、ピーク速度が出ているときの接地中に身体質量の中心(=重心)が移動する垂直距離はわずか2㎝以下であると推測されており、その仕事量はきわめて小さく、それがきわめて短い時間でなされたとしてもほとんど無視できるくらいの一瞬の時間になされるためパワー出力はきわめて小さくなります。これは水平方向においても同様です。

 スプリントは接地中に身体質量の数倍に達する大きな力を発揮しながら高速で移動するため、力×スピードのイメージで直感的にハイパワー運動だと考えられているようです。接地中に垂直や水平に発揮される力と、滞空時間も含めて身体全体が水平移動するスピードの掛け算をしても意味がなく、スプリントはローパワー運動だと言えます。

 

垂直跳びとパワー2)

 また、垂直跳びにおいても、跳躍高の他によくピークパワーが測定される傾向にあります。しかし、垂直跳びにおけるピークパワーは、運動中に発揮される力とその力が出た瞬間の速度を掛けた値が最大となった瞬間の値であり、力と速度の個々の変化によってそれ自体として変化します。ですから、測定ごとに示されるパワーと力あるいは速度が一致した変化をするとは限りません。それぞれ別々に変化すると考えて間違いありません。

 垂直跳びのパフォーマンスとピークパワーの間にある程度高い相関係数が示される傾向にはありますが、1RMやその体重比に比べればパフォーマンスとの関係が強いと言えるだけで、跳躍高とピークパワーとの間には間接的な関係はありますが、跳躍高を決定づけているのは離地の瞬間の踏切速度しかありません(ここには、r =1.0という完全な相関が存在します)。

 こうしたことからピークパワーを継続して測定し評価に使っていく意味はさほどないと言えます。
 しかもジャンプにおけるピークパワーは、離地の瞬間の速度や踏切動作中の最大の力が生じるのとは異なるタイミングで生じるため、その値に注目する意味はほとんどないと言えます。

 

3.ピーク速度

 次にピーク速度もわかりやすい指標であり、よく測定されている項目です。 ジャンプ高を決定づけるのは、踏切速度であると書きましたが、実際の踏み切速度を高い妥当性と信頼性で正確に取得することが技術的に困難な加速度計の場合、踏切の直前に示され、踏切速度(したがって跳躍高)と高い相関を示すピーク速度に着目することは重要な意味を持ちます。ジャンプの高さだけが問題ではなく、垂直跳びにおける跳躍高と直接的な関係にあるピーク速度は、スプリントや方向転換におけるステップ長と関係するため、ピーク速度を測定することはきわめて重要です。

 またジャンプではなくスクワットやベンチプレスで全力挙上する際に得られるピーク速度は、動作中に到達可能な最大の速度ですから、さまざまなスポーツ動作で要求される最大速度向上の重要な指標となります。

 

ピーク速度に到達する時間の重要性

 したがって、ピーク速度という指標をモニタリングし、トレーニング課題で追求するべき指標と位置づけることは重要です。しかし、ここで注意するべきことは、はたしてピーク速度が大きければそれだけで対象とするスポーツパフォーマンスの改善につながるかどうかという問題です。

 最大の跳躍高を追求するジャンプテストと実際の試合におけるジャンプとの決定的な違いは、時間の制約があるかどうかです。実際の試合では競争相手が存在します。また静止した空間のある地点ではなく、ボールのような高速で移動する物体への到達が課題となります。したがって、最大跳躍高に到達すればよいだけのジャンプ測定とちがい、運動の開始からピーク速度に到達するまでの時間が問題となります。

 これはジャンプだけではなく、他の動作についても同じことが言えます。速ければ速いほどいいのではなく、その速さにどれだけの時間で到達するか、すなわち、“ピーク速度到達時間”が重要なのです。 したがってウェイトトレーニングにおいてピーク速度だけを単純に追求して、それが向上したとしても、そこに到達するまでの時間が延長し、実際のスポーツ場面で使えないのであれば意味がありません。場合によっては、スポーツ場面で実際に行う動作における力発揮とは異なる運動パターンを習得してしまいかねません。

 ですので、ピーク速度を1つのトレーニング課題として追求するときには、同時にこのピーク速度到達時間の変化をも合わせて見ていくことが重要です。

 

 “加速インデックス”とその活用

 ジャンプにおける最大跳躍高のパフォーマンスを問題とするのであれば、ジャンプ高をそのジャンプを行うための動作時間で割ったRSImodがあります。これは、ピーク速度や踏切速度ではなく、実際に跳んだ高さをジャンプ動作に要した時間で割ることで、“より高くだけではなく、より速くかつより高く跳ぶ”というパフォーマンス評価にとってわかりやすい指標となります 3, 4)。 

 しかし、上述したようなジャンプ以外の動作におけるピーク速度とピーク速度到達時間を同時に評価するためには、“加速インデックス”と呼ばれる指標を参考にしていくことができます5) 。“加速インデックス=ピーク速度÷ピーク速度到達時間”で簡単に計算できます。

 したがって、今後は、パフォーマンスとの関係が不明瞭で誤解を招きやすいパワーよりも、パフォーマンスに直結し、なおかつ理解しやすいピーク速度にいかに短い時間で到達できるかという指標である加速インデックスを、トレーニングの課題として追求していくことをお勧めします。

 

参考文献

1) スプリントのバイオメカニクス:Force 2. ジョングッドウイン&ダン・クレザー(長谷川裕訳). エスアンドシー株式会社, 2023.

2) Force:トレーニングのバイオメカニクス. ダン・クレザー(長谷川裕訳)エスアンドシー株式会社.2023.

3) 長谷川裕. 「より高く」だけではなく「より速く、かつより高く」跳ぶ能力の測定と評価JATI Express, 89, 10-13. 2022.

4) 長谷川裕. RSImodによる爆発的筋力と競技特異的なジャンプ能力の強化, JATI Express, 90, 12-16,2022.

5) Luis Mesquita. Bridging the gap: Rehab&Performance.https://btgap.org/2023/04/12/peak-velocity-peak-power-are-they-telling-usthe-whole-story/_

 

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