トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#26 VBTの有効性についてのエビデンスとは? メタアナリシスをどう読むか

お問い合わせはこちら

ブログ

トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#26 VBTの有効性についてのエビデンスとは? メタアナリシスをどう読むか

2025/12/02

記事はJATI EXPRESS No.109に掲載のものです。

PDFの取得はこちらから

 


 メタアナリシスとは、これまで行われた複数の研究結果をそれらが示すデータを統計学的に処理することによって統合し、全体的な効果についての傾向を推定することで一定の結論を得ようとするための研究手法。そこで今回はVBTにかんするメタアナリシスをどう読むかということを通じて、VBTにかんする現在のエビデンスについて考えてみたい。


 

1.VBTのやり方は1つではない 
 “レジスタンストレーニングにおけるトレーニングプログラムの作成とモニタリングおよび評価のために行われてきた伝統的な諸方法を補完する手段として、場合によってはそれらの伝統的な方法に取って代わる手段として、動作速度を利用するトレーニング法”と定義されているVBT(VelocityBased Training) 1)には、図1に示すように、何のためにどれくらいの頻度や割合で速度を利用するかによって、さまざまな目的やレベルがあります。したがってVBTという1つのトレーニング方法があるのではなく、トレーニング中に動作速度を測ることには多くの利用価値があり、そのうちのどれを活用するかは指導者や指導場面によってさまざまです。
 

 そのため、VBTの活用方法は指導者によってバラエティーに富んでおり、挙上動作の速度を1レップごとにフィードバックすることによってアスリートのモチベーションを高め、全力での筋力発揮を促進するためだけに速度を利用しているという指導者から、挙上動作を測ることによって疲労レベルを客観的にモニタリングし、その結果に基づいてレップ数やセット数を調整している指導者、一定の速度で挙上可能なウェイトの重さあるいは逆に一定の重さを挙上できる速度によってトレーニング効果の評価に用いるという指導者、さらには個人ごとの負荷-速度プロフィールを作成してトレーニングで使用するウェイトの質量を決めているという指導者、そして指導対象によってそれぞれ異なる使い方をしているという指導者までさまざまな活用の仕方がなされています。
 こうしたトレーニング指導において動作速度を活用することの有用性は、30年以上にわたり数多くの研究と実践によって確かめられ、VBTを導入するチームや指導者はさらに増加する傾向にあります2)。ウェイトトレーニングおけるパラダイムシフトが起こりつつあると言っても過言ではありません3, 4)。

 

2.VBTにかんする研究の現状とメタアナリシス 
しかし、日本国内にとどまらず世界を見渡してみれば、従来からの伝統的な方法を補完したり代替手段として動作速度を利用することの有用性に対して懐疑的な立場をとり、VBTを導入する必要はないとする指導者や研究者もおられます。そうした立場をとる理由の一つが、「従来の方法に比べてVBTのほうがより有用性が高いという確固としたエビデンスがまだないから」というものです。
 VBTという言葉がトレーニング界に登場したのは2011年ごろですが、挙上速度を計測しながら行うトレーニングについての研究は、すでに1990年代から図1に示したような側面について数多く行われてきました。しかし、個々の側面について行われたすべての研究において、VBTは従来の伝統的な方法よりも効果的だという結論になっているわけではありません。ですからそれらの研究結果を重視すれば、挙上速度を測ることが100%確実に有効であると断言できないのも事実です。
 つまり、現状ではVBTが有効であるという研究が数的には優位を占めているとはいえ、統計学的に詳細に分析すると、明らかにVBTが効果的だとする研究とそうとは言い切れないという研究が混在しているのが現実です。
 こういう状況にある時に私たちがより正しい判断をするためには、科学的により高次元なエビデンスを得るための研究が必要となります。そのために一般的に有効とされているのが「メタアナリシス」と呼ばれる研究手法です。メタアナリシスは、これまで行われた複数の研究結果をそれらが示すデータを統計学的に処理することによって統合し、全体的な効果についての傾向を推定することで一定の結論を得ようとするための研究手法です。
 特定の研究テーマにかんするメタアナリシスの論文を読むことで、そのテーマにかんする現時点での結論を得ることができるとされているのですが、どんなメタアナリシスを読むか、そしてメタアナリシスをどう読むかによって、その論文から得られる情報が違ってきます。またそれに基づく判断にも違いが生じるため注意が必要です。そこで今回はVBTにかんするメタアナリシスをどう読むかということを通じて、VBTにかんする現在のエビデンスについて考えてみたいと思います。

 

3.メタアナリシスの手順
 メタアナリシスとよく混同されるものにシスタマティックレビューというものがあり、同じものだと思って軽く見過ごしている方もおられるかもしれませんが別の概念です。どちらも過去に行われた複数の独立した研究論文を一定の基準に基づいて整理し評価することで、より信頼性の高い客観的な結論を導き出す研究手法です。しかし、シスタマティックレビューにおいて客観性と根拠を示しながら論理的に結論を引き出すことに加えて、メタアナリシスではさらに統計学的な解析手法を用いてデータを統合することで、より強力な結論を導き出すことが求められます。その意味ではメタアナリシスはシステマティックレビューの一部であり、レビューで得られた結果をさらに深く掘り下げて統計量である数値として示すものとも言えます。
 メタアナリシスの基本的な流れは、最初にP u b M e d やM E D L I N E 、SPORTDiscusといったトレーニングにかんする情報が入手可能な文献検索サイトから、velocity- based training、1RM、sprint speed、CMJといった特定のキーワードを組み合わせて関連文献を網羅的に検出します。次に検索によって抽出された文献の中から、どれをメタアナリシスに含めるか除外するかの一定の基準によって文献を絞り込みます。
 例えばVBTを適用したトレーニング群と従来の方法で行ったトレーニング群を比較する際にそれぞれの群の振り分けをランダムに行ったのか、それとも基準を設けて恣意的に行ったのか、対象者の特性(アスリートか一般人か)や年齢、実施されたトレーニング期間を何週間以上にするか、頻度は週に何回以上にするか、トレーニング結果として測定された項目等々によって分析に用いる文献を選定します。どの研究を分析に含めどの研究を除外するかは研究結果に大きく影響してきます。したがって通常は複数の研究者が集めた論文を隅から隅まで読んで注意深く研究を絞り込んでいきます。
 こうして絞り込まれた研究からデータが抽出されます。VBTと従来の方法を比較したメタアナリシスのほとんどは、対象とする研究によって1RM、CMJの跳躍高、直線スプリントタイムそして方向転換走(COD)タイムのいずれかあるいはすべてについてのPreとPostの差を分析対象としています。論文によっては結果のデータが数値ではなくグラフだけで示されていることもあります。そのような場合には棒グラフや折れ線グラフの画像から数値データを抽出するAIアプリが用いられることもあります。

 

4.メタアナリシスの統計解析法
 メタアナリシスの統計解析のやり方を極端に簡単に言ってしまうと、各研究で示されたトレーニング効果の平均値を求め、2つのトレーニング群でどちらが大きいかを比べるというだけのことです。しかしそう簡単にはいきません。実際にはかなり面倒な計算が必要となります。なぜなら、各研究におけるトレーニングはそれぞれ異なった人数で行われており、知りたいのは母集団における差だからです。

 

1.    平均値差ではなく標準化平均値差(SMD)で比較する
 例えば表1のように、ある研究Aでは速度を基準としてセッションごとに負荷を調節してトレーニングを行ったグループ(VBT群)と、あらかじめ行った1RMテストの結果に基づいてその固定されたパーセンテージで最初から最後までトレーニングを行ったグループ(PBT)群のPre-Post差を比較するとします。VBT群は5㎏、PBTは7㎏でPBTのほうが効果的だったということになります。しかし別の研究Bでは、VBTが16kg、PBTが15kgでVBTのほうが効果的という結果になっています。
 

 そこで2つの研究のVBTとPBTの算術平均と求めると、VBTは(5+16)÷2=10.5、PBTは(7+15)÷2=11.0となり、PBTのほうが効果的だという結論になります。しかし、それぞれの方法でトレーニングした人数を考慮して合計してからそれぞれの人数の和で割って平均値を求めるという計算すると、VBTは(5×8+16×13)÷(8+13)=11.81、PBTは(7×8+15×10)÷(8+10)=11.44となり、VBT群のほうが高い値となります。こうした逆転現象は各グループのサンプルとなった人数(n数)が異なることから生じる問題です。
 そこでメタアナリシスではこうした問題を防ぐために標準化平均値差(standardized mean difference:SMD)という指標を用いて比較することになります。これは両群のPre-Postの平均値の差を、両群のn数の違いによって重み付けして併合した標準偏差(これを“プールした”標準偏差という)で割る(この操作が標準化)ことで、人数の違いによって生じる問題を生じさせず、また異なる測定指標によるトレーニング効果(1RMの㎏、CMJのcm、スプリントやCODのタイムのsec)についてもその変化の大きさを比較できるようになります。

 

2 SMDの計算方法
 メタアナリシスの最終目的は、集めた個別研究の効果を統合することです。それによってこれまでの研究全体としての傾向と効果の大きさおよびその統計学的有意性を分析します。そのためには、まず各個別研究の効果を算出する必要があります。上述したように、VBTとPBTのPre-Postの平均値の差を、プールしたPreテストの標準偏差で割ってSMDを求めます。これはCohen‘s dと呼ばれるエフェクトサイズと同じ計算を用います。
 VBTとPBTそれぞれのPostテストの平均値からPreテストの平均値を引き、その差をVBTとPBTのそれぞれのPreテストの標準偏差をプールした値で割ります。次に小規模研究においてCohen’sdが効果量を過大評価する傾向を補正するために修正係数をかけることでHedges’ gと呼ばれる値を計算します。これによって、1RMやCMJなどの各テスト項目についてVBTによる変化とPBTによる変化のどちらがどれだけ大きいと言えるかが明確となります。VBTを基準として分析した場合、この値がプラスならVBT、マイナスならPBTと判断できます。ゼロであれば差がないということになります。
 こうして計算された各研究のSMDがメタアナリシスの核心である統合という次のステップにかけられることになります。
 SMD(エフェクトサイズ)の詳しい意味や標準偏差のプールのしかたやHedges‘s gの修正係数等について詳しく知りたい方は文献5, 6)を参照してください。

 

3.エフェクトサイズの重みづけと統合
 エフェクトサイズの統合は、各個別研究のSMDを単純に平均化するのではなく、個々の値に重みづけをしてから平均値を求めます。各研究から得られたエフェクトサイズのうち、より正確な情報を持つ研究、換言すれば正しい情報である確率の高い研究により強い重みづけを行います。そのためにはエフェクトサイズの母集団におけるばらつきを示す標準誤差を計算し、その値の逆数をエフェクトサイズに掛ける逆分散法と呼ばれる手法を用いることで、ばらつきの小さなエフェクトサイズに対してより強い重みづけを行うことになります。
 重みづけの方法には固定効果モデルとランダム効果モデルがありますが、これまでのVBTとPBTの比較をした研究ではすべてランダム効果モデルが用いられています。それは、ランダム効果モデルはエフェクトサイズの標準誤差だけではなく研究間のばらつきも考慮しているため、より広い母集団を想定することとなり、固定効果モデルよりも信頼区間が広くなり、統計学的有意性が出る可能性が低くなりますが、より慎重な統合結果を導こうとしているからだと思われます。
 こうして重みづけがなされた各研究のエフェクトサイズの合計を重みの合計で割る(重みづけ平均)ことで最終的な統合値が計算されます。

 

4.母集団におけるエフェクトサイズの信頼区間
 上記の方法で求められたエフェクトサイズはあくまでもその研究のサンプルから計算された値であり、そのサンプルに対して正しいと言えるだけで、決してそのサンプルが属する母集団における値であるとは言い切れません。母集団におけるエフェクトサイズの真の値は、サンプルを用いて求められたエフェクトサイズからずれているかもしれないのです。そこで、エフェクトサイズに一定の幅を持たせて示す必要があります。それを区間推定と言い、その幅を信頼区間と言います。メタアナリシスでは一般に95%信頼区間(95%CI)というものが用いられます。これが意味するところは、信頼区間で示された幅のある上と下の限界値よりも外側に母集団の真のエフェクトサイズがある可能性が5%あるということです。逆に言うと、同じサンプルによる研究を100回繰り返したときに95回は母集団の平均値がこの範囲に入るだろうという確率を表しています。
 したがって、エフェクトサイズの値がVBTかPBTのどちらかに位置していても、信頼区間が少しでもゼロを跨いでいれば、母集団においては反対側に位置する可能性が残されているから注意が必要、ということになります。
 エフェクトサイズの95%CIの求め方は、一般的な平均値のそれと考え方は同じで、標準誤差×1.96を掛けたものをエフェクトサイズからマイナスまたはプラスすることで算出されます。 先に述べた各研究間のバラつきを考慮しない固定効果モデルによって重みづけを行うと標準誤差は小さくなり、その結果、信頼区間の幅も必然的に狭くなってトレーニング効果を過大評価してしまうことになります。それを避けるためにランダム効果モデルが採用される傾向が高いのです。

 

5.研究間の異質性に注意する
 長々と難解で面倒くさい(かなり!) メタアナリシスのやり方を説明してきましたが、それはメタアナリシスがどういうものなのかを理解したうえでそれを正しく読んで適切な判断していただきたいためです。最後にもう1つだけ大切なことを説明しますのでもう少し我慢してお付き合いください。
 メタアナリシスは複数の別々の研究から得られた効果を1つのエフェクトサイズとその信頼区間に統合することが目的です。しかし、それは個々の研究の対象者の特性やトレーニング歴やトレーニングプログラムの内容といった研究デザイン等の違いから発生する異質性がない場合にのみ意味があります。同質の個別研究をまとめることでサンプル数を増やすことによって、より統計学的有意性の検出力を高めることが最大の目的です。しかし医学分野でもこうした異質性(臨床的異質性)が認められる場合は、得られた最終結果だけで判断することは戒められています。
 また、メタアナリシスで算出された統合値は小さいけれども、中に非常に高いエフェクトサイズがVBTかPBTのどちらかに示される個別研究が存在する場合、こうした情報は全体的な統合値からは失われ、全ての研究が小さなエフェクトサイズだったという誤った判断につながってしまいます。全体としての母集団とは別に真の効果が異なるサブグループが存在する場合もあります。アスリートと非アスリートで真の効果が異なる可能性や、ウェイトトレーニングだけ行った介入研究かそれともスポーツのためのトレーニングと同時並行で行ったウェイトトレーニングについての研究かといったこともそれに該当します。
 すべての研究が同じ母集団のエフェクトサイズを示しているかどうかという統計学的異質性については計算で求めることができます。それがI²という指標です。I²は0%~100%の値を取り、一般に40%までですとそれほど重要な異質性はないと解釈され、50%を超えると異質性が高いと判断され解釈に注意が必要となります。統計学的異質性はQテストを用いて評価されることもあり、この場合は有意水準p値によって判断されます。 I²やp値によってそこまで高い異質性が示されなかった場合でも、統合された全体としての信頼区間から大きくずれた信頼区間を持つものがある場合には、その研究を除去して計算しなおすことが必要となる場合もあります。

 

5.フォレストプロットの読み方
 以上の点を踏まえてメタアナリシスの結果をどう読むかについて説明します。メタアナリシスの結果はフォレストプロットという図で示されます。 VBTとPBTの有効性の違いにかんして、これまで報告されているメタアナリシスには、Liaoら(2021)7)、Orangeら(2022)8)、Hickmottら(2022)9)およびZhangら(2022)10)があります。この中でもPDFの図が最も見やすく鮮明にコピペできるOrangeら(2022)8)の1RMの結果についてのフォレストプロット(図2)を例として説明します。ブルーの枠はわかりやすいように私が追加したもので実際はありません。
 

 左端には各研究の筆頭著者名と発行年が示されています。その右側にあるのがトレーニング効果を調べた測定項目です。1つの研究で複数の項目になっているものもあります。この例では1RMがどう変化したのかというくくりで複数の種目が比較されています。その隣の■で示されているのがそれぞれのエフェクトサイズで、横棒が95%CIです。中央一番下に示されているのがエフェクトサイズ(SMD)のスケールで、中央が0、左側にマイナス、すなわちPBPのほうが効果的、右側のプラスがVBTのほうが効果的であったことを示します。したがって■を下に辿ってスケールのどこに位置し横棒がどこからどこまでに伸びているかを見れば各エフェクトサイズの大きさと95%CIがわかります。この値は右端のSMD[95% CI]に数値で示されています。各研究のエフェクトサイズの値と95%CIの下限と上限です。Weightというのが重みづけで、%で示され一番下にあるように合計100%となります。各エフェクトサイズの■の面積が重みづけの強さと対応しており、研究対象となったサンプルのn数が多くばらつきが少ないことを示しています。すべてのエフェクトサイズを統合した値は一番下の菱形で示されます。この中央が統合されたエフェクトサイズの値です。この統合値の95%CIは横棒ではなく菱形の両端で示されています。すべての個別研究を統合するのでサンプルサイズが大きくなり、その結果として信頼区間は狭まります。最も右側の一番下には統合されたエフェクトサイズの値と95%CIが示されています。
 左下のH e t e r e o g e n e i t y はHeterogeneityのスペルミスだと思われますが、これが異質性でp値は0.42ですから有意ではなく統計学的な異質性はないと言えます(ちなみに異質性のp値は0.05ではなく0.1がカットオフ)。ただしI^2(I²のこと)は42.9%ですから中等度の異質性があると読むことができます。

 

6.メタアナリシスの統合値の結果だけからわかること
 では以上を踏まえて、これまで報告されている4本のメタアナリシスが示している結果について以下に説明します。それぞれのメタアナリシスが分析対象とした個別研究の具体的な内容にかかわる臨床的異質性にはまだ立ち入らず、各測定項目に対するエフェクトサイズと95%CIについてのみ紹介します。

 

1.1RMに対する効果
 1RMの変化に対するVBTの効果について、これまでのメタアナリシスは意見が分かれています。L i a o ら(2021)7)、Orangeら(2022)8)およびHickmottら(2022)9)は、VBTとPBTの間に有意な差はないと結論づけています。SMDの統合値はVBTのほうが効果的とするプラス側に位置していますが、その95%CIが0をまたいでPBT側にも伸びているからです。Liaoら(2021) 7)が対象とした個別研究の分析項目はバックスクワットとベンチプレスの2種目ですが、Orangeら(2022)8)は、それに加えてオーバーヘッドプレス、デッドリフト、ベンチロウの結果を含めており、Hickmottら(2022)9)はさらにフロントスクワットも分析対象としています。
 図2を見ると、Heldら(2021)11)のボート選手がボートのトレーニングと並行して行ったバックスクワットの95%CIが0をまたがずに有意にVBTのほうが効果的だという結果を示した以外すべて0をまたぐ結果が示されています。総合値も0を跨いでいます。この結果だけから結論づければ1RMの向上効果についてVBTがPBTよりも効果的だとするエビデンスはないということになります。
 しかし、Zhangら(2022)10)のメタアナリシスは、VBTのほうがPBTよりも有意に1RMを向上させると結論づけています。この研究には先の3本に含まれていないMontalvo-Pérezら(2021)による女子の自転車競技の選手を対象とした研究12)のヒップスラストにおける1RMの変化が含まれています。またこの研究ではサブグループに分けた分析も行っており、アスリートと非アスリートに分けた分析の結果、非アスリートではエフェクトサイズと95% CIが0.12[-0.27, 0.50]でゼロを跨ぐ結果だったのに対して、アスリートでは0.35[0.06, 0.64]とゼロを跨がない有意な値を示しており、統合した結果も、0.26[0.03, 0.49]でVBTがPBTよりも有意に大きな向上をもたらすと結論づけています。

 

2.ジャンプおよびパワーに対する効果
 CMJに対する向上効果についてはLiaoら(2021)7)が分析しており、VBTとPBTに有意な差がないとしています。Orangeら(2022)8)はCMJとドロップジャンプおよび4 0 ~90%1RMに対する挙上速度を一まとめにして筋パワーに対する効果の分析としてメタアナリシスを行っています。その結果はVBTもPBTも同じようにこれらの値を向上させ、両者に有意な差はないと結論づけています。

 

3.スプリントに対する効果
 5~30mまでの距離に対するスプリントタイムがLiaoら(2021)7)とOrangeら(2022)8)によって報告されており、どちらもVBTとPBTのスプリントタイムを短縮させその効果には有意な差がないとしています。

 

4.方向転換走に対する効果
 方向転換走についてはL i a o ら(2021)7)によって分析されています。SMD値はVBT側のプラスですが95%CIの下限値が0を跨いでおり有意とは言えません。

 

5.ヴェロシティーロス・カットオフ(VLC)による比較
 冒頭で述べたように、VBTとは単に日々使用するウェイトの負荷を以前行った%1RMではなく速度によって調節するという特徴を持つトレーニング法だけではなく、セット内挙上速度の低下率によってセットを終了させるというトレーニング(ヴェロシティ―ロス・カットオフ:VLC)も含まれています。Hickmottら(2022)9)のメタアナリシスは速度低下閾値が≤25%すなわちセットを終了させる速度低下率を25%以下としたグループと、>25%すなわちその閾値が25%よりも大きかったグループを比較した個別研究についてのメタアナリシスを行っています。この研究ではスポーツトレーニングと並行してウェイトトレーニングを実施した研究と、他のトレーニングは一切実施行わずウェイトトレーニングだけを行った研究のサブグループで検討した結果、ウェイトトレーニングだけの研究では有意差が示されませんでしたが、ボート競技のトレーニングと並行して行われたHeldら(2022)11)およびシーズン中のプロサッカー選手のトレーニングの一環として行われたPareja-Blancoら(2017)13)によるウェイトトレーニングの研究を対象として行われたサブグループのメタアナリシスでは≤25%低下率で行ったトレーニングにおいて、>25%の速度低下率で行ったトレーニングに比べて大きなエフェクトサイズが有意に示され、研究全体としても有意に大きなエフェクトサイズが≤25%低下率群に示されました。
 この結果には、VBTを単に負荷の設定法として速度を用いるという側面だけに限定してPBTに対する優位性のエビデンスがあるとかないとかいうのではなく、VLCというVBTの重要な特徴について行われたメタアナリシスの結果を見れば速度をモニタリングすることによるVBTの有効性にかんするエビデンスが示されていることがわかります。

 

7.個別研究の内容面の異質性からわかること
 Orangeら(2022)8)の1RMに対するメタアナリシスに用いられた研究はJimènez-Reyesら(2021)14)、Orangeら(2019)15)、Dorrellら(2020)16)、Heldら(2021) 11)の4本です。図2で示されているように、全体としては0のラインよりも右側すなわちVBTのほうが効果的だというエフェクトサイズが示される傾向にありますが、Jimènez-Reyesら(2021)14)のバックスクワットだけがPBTのほうが効果的だとする大きなSMD値と95%CIを示しており、I²が42.9%と中等度の異質性が示されています。筋パワーとスプリントについてもJimèez-Reyesら(2021) 14)のエフェクトサイズが大きくPBT側に寄るという同様の傾向を示しています。この研究だけ他と異なる何らかの特徴があったのではないかと考えることができます。
 そこでそれぞれの個別研究について詳しく検討してみることにしましょう。

 

1.トレーニング実施者の特性
 トレーニングを行った対象者はどの研究も2年以上のウェイトトレーニング経験のある成人と記されています。これだけ読むとどの個別研究もほぼ同じようなトレーニング経験を持つ人たちによるトレーニング研究だったのだなと思うかもしれません。しかし論文の中身を詳しく読むと意外なことがわかります。
 年齢は17~23歳、身長は178~181cm、体重は75.9~89.3㎏と各研究で大差はありません。しかし、トレーニング前の1 R M 値を見ると、Jimènez-Reyesら(2021)14)のバックスクワットは80.3㎏であり、他の3つでは127.4~140.2㎏となっており、Jimènez-Reyesら(2021)14)の対象者が極端に低かったことが明らかです。他の3つの研究では体重の約1.5倍以上なのに対して1倍程度しかないことになります。このことから、エフェクトサイズが大きくPBT側に位置しているJimènez-Reyesら(2021)14)の研究におけるトレーニング実施者は他の研究に比べて筋力が著しく低かったサンプルによる研究であったことがわかります。それを踏まえて後述するこの研究のプログラムを検討する必要があります。

 

2.トレーニング内容とその実際
 トレーニングの内容はどうでしょうか?どの研究も週2回、6~8週間のトレーニング期間です。

 

●速度に基づく負荷の増減方法の違い
 Orangeら(2019)15)のPBT群は、週2回のセッションで事前の1RMテストに基づいて1回は80%1RMもう1回は60%1RMでどちらも4セット×5レップ行い、トレーニング期間の7週間にわたりその負荷を固定して行いました。これに対してVBT群は、事前に実施した個人ごとの負荷-速度プロフィールに基づいて1回目は80%1RM、2回目は60%1RMの挙上速度に対応する負荷を選んで4セット×5レップ行いました。ただし、1セット目の5レップ中の最大速度が0.06m/sを上回ったら次のセットでは負荷を5%増量し、もし最大速度が0.06m/s下回ったら次のセットでは負荷を5%減量しました。いずれのグループに対しても全力で最大速度を発揮して挙上するよう指示をして激励をしましたが実際の速度のフィードバックはしていません。
 この0.06m/sというのは別の研究でバックスクワットのセッション間の速度に差があると言える最小有効変化量が0.06m/sであったことに基づいています17)。最小有効変化量というのはランダムに生じる偶然誤差やノイズといった自然現象と、疲労や適応によって生じる明らかな真の意味のある変化を区別するための変化量を言います。その数値未満であればそれは偶然の結果であり無視してよいけれども、それ以上であればそこには何らかの意味のある変化があったと判断して何らかの処置をすることになります18)。
 他の3つのメタアナリシス7, 9, 10)には含まれているのになぜかOrangeら(2022)のメタアナリシス8)では分析対象に含まれていないBanyardら(2020)の研究19) も同じ0.06m/sという値を用いてセットごとの負荷を増減させています。この研究ではCMJとスプリントタイムのエフェクトサイズを1.2以上という大きなエフェクトサイズでVBTの方が顕著な向上を示しています9)。
 ここで注意する必要があるのは、セット当たりのレップ数は5レップで同じですが、この研究ではOrangeら(2019)8)のようにセット内の最大速度ではなく、セットの平均速度が0.06m/sを上回るか下回るかによって±5%1RMの負荷の増減を判断しているという点です。
 最大速度で判断するかそれとも平均速度で判断するかは負荷の増減に大きな違いをもたらします。最大速度の場合、1レップでも0.06m/sを上回る大きな値が出れば次のセットですぐに負荷を増やしますが、最大速度が0.06m/sを下回らない限り、たとえ残りの4レップが大きく下回ったとしても減量しないことになります。これに対して平均速度の場合は1レップだけ0.06m/sを上回ってもセットの平均速度が0.06m/s以上にならない限り負荷を増やしません。逆に最大速度が0.06m/sを下回らなくても平均値で0.06m/s を下回れば減量します。つまり0.06m/sという閾値を使って負荷の増減をしたと言っても、最大速度で判断した場合は負荷を上げやすく下げにくくなるのに対して、平均速度の場合は負荷を下げやすく上げにくくなるのです。これはあらかじめ決めた速度閾値でセットごとの負荷を増減するという設定でトレーニング指導をしたことのある人ならだれでも知っていることです。
 したがって、Orangeら(2019)8)の研究でVBT群とPBT群の間で1RMやCMJやスプリントにおいてVBT群に有意なエフェクトサイズの向上が示されなかったことは、Banyardら(2020)の研究19)でCMJとスプリントタイムのエフェクトサイズが一般に非常に大きいとされている1.2以上向上させた結果と比較すると、そこにはラグビーシーズン中に行われたOrangeら(2019)8)のトレーニンングが負荷を減らすよりも負荷を上げる方向に偏っていたため、疲労を招きやすかったのではないかと考えることができます。同じように速度によってセットごとの負荷を調整したという研究であても、実際の内容についてはこれくらいの大きな差があるという点を踏まえた判断が求められます。
 もっとも1レップごとの0.06m/sという中途半端な数値を用いて細かく負荷を増減するという方法が適切かどうかは別の問題であり、VBTというものが常にすべてこうした面倒な負荷の調整法をしているわけではなく、こうした研究で用いられた方法はむしろ実際には使われることはあまりなく、設定した速度ゾーンからはずれた場合とか、強度は変えずにVLCでレップ数のみコントロールするという方法のほうが多く使われているという現実を見ておく必要があります。

 

●総レップ数や速度低下を指標としたセット終了のストレスやリカバリーに対する効果
 次にメタアナリシスで分析対象とされた各研究の総レップ数について見てみましょう。
 Dorrellら(2020)16)は6週間にわたる週2回の全て3セットのセッションで70~95%1RMまで変化させレップ数をそれに合わせて2~8レップまで変化させました。VBT群は過去の研究結果を基に%1RMに対応する速度ゾーンが設定されました(例えばバックスクワットで70%1RMなら0.74~0.88m/s)。VBTとPBTでセット数とレップ数は同じとしましたが、VBT群に対してのみ速度フィードバックを行い、セット内の挙上速度が速度ゾーンからはずれていた場合は次のセットで負荷を増減しました。さらにVBT群はセット内最大速度から20%以上低下した時点でそれ以上の反復をおこなわずにセットを終了させています。その結果、トータルのレップ数はPBT群に比べてVBT群が有意に少なくなりました。上述したようにVLCによってトレーニング期間を通じた総レップ数を低く抑えつつ同じまたはより大きな効果が得られる、というのもVBTの特徴のひとつでありVBTを採用する理由として重視されている点でもあります。したがってVBTの効果を考えるうえでこの点も無視できない側面になります。
 ボート競技の選手に対してボートのトレーニングと並行して行われたHeldら(2021)の研究11)におけるPBT群は週2回常に80%1RMでフェイリヤーまで反復するトレーニングを8週間継続しました。それに対してVBT群は同じ80%1RMを用いてトレーニングしましたが、反復速度がそのセット内最大速度から10%減速した時点でセットを終了させました。どちらのグループにも速度フィードバックを行い最大速度を発揮するよう激励がなされました。その結果、トレーニング期間を通したVBT群の総レップ数はPBT群の76%に過ぎないという結果になりました。またこの研究ではウェイトトレーニング中の主観的運動強度(RPE)が調査され、さらにウェイトトレーニングセッションの24時間後と48時間後のリカバリーレベルも調査されました。その結果、VBT群はPBT群に比べて有意に低いRPEを示し、24時間後および48時間後のストレスも有意に低く、より素早いリカバリーを示しました。
 VBTを従来のトレーニング法と比較して効果があるかどうかという判断をする際には、トレーニングの結果だけではなく、こうした総レップ数やストレスの大きさや回復の速さという側面について目を向けることがトレーニング法を評価する上で重要であることはあらためて言うまでもないことでしょう。

 

●速度を測ることでわかったプログラムとは異なる実際の強度と疲労度
 Jimènez-Reyesら(2021)の研究14)は、PBT群もVBT群も第1週から第8週にかけて週2回のセッションで50%1RMから80%1RMまで漸増させていきました。セット数は3~4、レップ数は2~8レップでした。
 PBT群は事前の1RMテストの結果に基づいて計算された%1RM値の負荷で最後までトレーニングしました。これに対してVBT群はPBTと同じように漸増計画された%1RMでセット数とレップ数も全く同じでしたが、使用する負荷は%1RMに対応する速度によってセッションごとに調整されました。例えば第1週目の50%1RMなら1.13m/s、第6週目の75%1RMなら0.75m/sという速度に対応する負荷をウォームアップで見つけてその重さで行いました。それによって、個人によって異なる日々の体調に応じた負荷が設定されるという想定でした。どちらのグループに対しても最大努力がなされるように、挙上速度がリアルタイムでフィードバックされ最大速度を発揮するよう鼓舞されました。
 ここまでなら通常のVBT vs PBTの研究だったように思われますが、この研究が他の研究と大きく異なるのは、先に指摘したトレーニング実施者の筋力レベルの低さ以外にもう1つあります。
 それはPBT群もVBT群もトレーニング期間の全体を通じてすべてのレップの挙上速度を測定し、トレーニング期間終了後にその中身を詳しく検討していることです。それによって、事前にプログラムされた負荷と実際にトレーニングされた負荷のズレをチェックすることができ、さらに各セットの最大速度と最小速度の差からセッションごとの疲労度を知ることができました。
 その結果、非常に興味深いことが判明しています。第1に、第2週目以降PBT群のほうがVBT群よりも有意に速い速度でトレーニングしていたのです。え?それって逆ではないの?と思われた方がおられても不思議ではありません。しかしその傾向はトレーニングが進むにつれて顕著となりました。例えば最後のセッションでは両グループとも80%1RMでトレーニングすることになっていましたが、PBT群の実際の挙上速度は0.91m/sであり、VBT群の0.67m/sと大きな差がありました。PBT群の0.91m/sという速度で挙上可能な負荷は64%1RMに相当します。つまり、プログラムでは80%1RMでトレーニングするという計画でしたが、トレーニング前に測定した1RMの80%の重さはPBTでトレーニングした人達にとってはすでに64%になってしまっていたのです。これは%1RMで負荷を設定した結果、トレーニングをしている間に筋力が向上し8週間後には事前の1RMに基づいて計算された80%1RMという負荷の絶対値(kg)は実際は64%1RMだったということになります。
 一方VBT群は、80%1RMに相当する0.67m/sの速度となる負荷を用いていますからその時点での実際の負荷はプログラムどおり正に80%1RMという高重量でトレーニングしていたのです。
 結局PBT群はVBT群よりも全トレーニング期間を通して、特にトレーニングの進行につれて、VBT群よりもより軽い相対的負荷で、しかもより速い速度でトレーニングをしていたことになります。
 さらにこの研究の興味深い2つ目は、各セッションのセット内速度の低下率についてです。これもトレーニングの進行につれてVBT群のほうが顕著となり、平均速度低下率はPBTが7.78%だったのに対してVBTは11.04%でセッションにおいて常により大きな疲労を経験していたことが明確となりました。
 このJimènez-Reyesら(2021)の研究14)では、PBTのほうがVBTよりも1RMのみならずCMJもスプリントも大きく向上させたという結果が示されていますが、それは速度を測るか測らないかというトレーニング方法の違いとは全く関係のない理由によるものであったという点が重要です。
 強度と量のプログラム計画それ自体がこの研究のサンプルとなった対象者にとっては適切ではなく、強度が強すぎ漸増の仕方も急すぎて、速度を測ることでその通りに行ったVBTよりも、まったく計画された%1RMのとおりにはなっていなかったPBTのほうが運よくより適切な刺激を掛けながら大きな疲労を招くことなくリカバリーがうまく進んだ結果、より大きな適応が引き出された、というギャグのような結果だったのです。
 逆に計画どおりに正確に負荷を漸増できたVBTは、この研究のトレーニング実施者にとっては強度が強すぎて疲労も蓄積させたと考えられます。このような実際のトレーニングの中身を踏まえずに、研究上のPBTがVBTよりも効果的だったとしてメタアナリシスの個別研究に含めその統合値という統計量だけで考察することは全くナンセンスだと言わざるを得ません。

 

●結論の統計量だけではなく、総レップ数、ストレスの強さ、リカバリー時間、トレーニングの行われた条件にも目を向けることが重要
 以上、主にOrangeら(2022)のメタアナリシス8)を例としてそこで分析対象となった個別研究について検討してきました。ここからわかることは、メタアナリシスの最終的に統合されたエフェクトサイズという統計学的な数字だけを見れば、VBTとPBTには差がないという結果であっても、サンプルとなったトレーニング実施者の特性や実際に行われたトレーニングの条件や内容を検討すれば、VBTとPBTのどちらが効果的でどちらを採用するのが有効かという判断はできないということが明らかです。
 Liaoら(2021)のPBTとVBTの1RMに対するトレーニング効果に差はないとしたメタアナリシス7)で取り上げられた6本の個別研究のうち4本、Orangeら(2022)8)の4本のうち3本、Hickmottら(2022)9)の3本中2本、そしてZhangら(2022)10)の7本中4本の個別研究で、VBT群の方がPBT群よりもトレーニング期間を通じた総レップ数が有意に少なかったことが明らかであり、これらのメタアナリシスで分析対象とされたHeldら(2021)11)では先にも紹介したようにVBTのほうがRPEとストレスレベルが低くリカバリーも早かったことが示されています。
 また女子サッカー20)と男子のサッカー21)とラグビーのシーズン中のトレーニング8)およびボート競技のトレーニング11)や自転車競技のトレーニング12)と並行して行われたウェイトトレーニングの研究も含まれており、そのいずれも1RM、CMJ、スプリント、CODの全てまたはいずれかにおいてVBTがPBTよりも有意に大きなエフェクトサイズを示しています。

 

●フィードバックの有無
 VBTの重要な特性として、冒頭にも記したように(図1)速度のリアルタイムフィードバックによる動機づけという効果があります。速度フィードバックのあるトレーニングとないトレーニングとではトレーニングルームの雰囲気が全く異なるということ、そしてフォームを意識しながら決められた重さと回数だけを遵守することが求められるPBTと、日々発揮した筋力やパワーがわかりトレーニングの成果やコンディションが明確となるVBTとでは、選手のやる気とアドヒアランスが全く異なることは、少しでもVBTの指導経験のある指導者であればすぐにわかるはずです。
 その点で、速度のリアルタイムフィードバックがなされた研究となされなかった研究を混ぜて統計処理をした結果だけで判断をすることについても慎重に検討することが求められるでしょう。

 

8.ネットワークメタアナリシス
 一般にメタアナリシスと呼ばれているものはここまで考察してきたようにVBT vs PBTのような2群のトレーニング法を直接比較するものを指します。これに対して3種類以上の介入方法の違いについて直接比較だけではなく、間接比較も含めて分析するネットワークメタアナリシスという研究手法も存在します。A vs Bという研究とB vsCという研究があれば、統計処理をすることでA vs Cについての比較もできるので、どの方法がベストなのか、それに次ぐのはどれなのかといった判断が可能となります。
 これまでにHeldら(2022)22)とHuangら(2025)23)という2つのネットワークメタアナリシスがあります。今回は詳しく紹介する余裕はありませんが、いずれもあらかじめ測定した1RMの結果に基づいて強度と量を決めるPBTよりもVBTを含む日々のコンディションに応じてトレーニングの強度や量を調節する方法のほうが効果的であることを示しています。特に前者の研究では速度によって負荷の調節を行っただけの一般的なVBTと、VLCによってレップ数を少なくコントロールしたVBTといった直接的な比較研究が存在しない問題についてもエフェクトサイズの差が算出されており、特にジャンプとスプリントについては、20%未満のVLC、次いで20%以上のVLCが最も高いトレーニング効果をもたらすという結論が導き出されています。
 図3にそのフォレストプロットを転載しています。ネットワークメタアナリシスのフォレストプロットはこのように個々の研究のSMDとその統合値ではなく、各評価項目についてのトレーニング方法によるSMDの違いが示されます。上から1RM、ジャンプ、スプリントについての結果です。いずれもPBT(図ではTRTと表記されている)との比較ですからTRTの行にはSMDと95%CIは示されていません。1RMとジャンプについてはVLC20%未満のLowVLが、スプリントについてはVLC20%以上のHighVLが最も高い効果を示すことがわかります。
 

おわりに
 長い文章を最後までお読みいただきありがとうございました。以上のようにVBTにかんするメタアナリシスを正確に理解しそれに基づいて適切な判断をするためには、統計量としての結論が導き出される分析手法の基本的なやり方を正しく理解したうえで、そこに含まれている個々の研究の異質性や具体的な内容の違いについてもできるだけ詳しく検討することが必要なことがお分かりいただければ幸いです。
 とはいえ、現実問題としてトレーニング指導者が、個別研究の内容についてまでもすべて詳細に調べあげることは決して容易ではありません。この小論のような解説を参考にしていただくほかないのかもしれません。
 すくなくとも、本論で詳しく考察したように、メタアナリシスの結果VBTもPBTも同じようなトレーニング効果が引き出され、そこには統計的に有意な差がないという数値的な結論だけに基づいて「VBTがPBTより優れているというエビデンスはない、したがってVBTを採用するメリットはない」と結論づけるのはあまりにも早計で稚拙だと言わざるを得ません。
 トレーニングの目的は、ケガやオーバートレーニングのリスクを最小限にとどめながら少しでも高い効果を少しでも効率的に得ることであり、トレーニング効果が同じであれば、ケガやオーバートレーニングのリスクがより低いということは、それを採用するだけの十分な価値があるということになります。
 過負荷となるような継続的なトレーニング刺激に対する適応と、適応反応のための疲労からの回復という2つの要因の相互作用の結果としてトレーニング効果が得られるというのがこれまでのトレーニング科学の到達点です。つまりトレーニングによってフィットネスを高めつつトレーニングによって生じる疲労からのリカバリーをいかに促進するかという相互作用の結果としてフィットネス-ファティーグ理論が言うところのパフォーマンスが決まります24)。フィットネスを高めファティーグの回復を促進する要因には多様なものがあり、冒頭で示したVBTのさまざまな側面がそれに関与してきます。
 単なるウェイトトレーニングの1RMに対する効果についての条件統制された実験研究ではなく、現実のアスリートはスポーツのトレーニングや試合やさまざまな日常生活からのストレスの中でトレーニングを継続していく必要があり、パフォーマンスを向上するために改善するべき能力には多様なものがあります。これらについてはこれまでに様々な質の高い観察研究が行われています。統計的に統合さえすれば最強のエビデンスが得られるというかつてのようなメタアナリシスを頂点としたエビデンスピラミッドによる単純化はすでに見直されてきています25)。メタアナリシスは現在多く示されている多くのエビデンスをより深く把握し検討するためのツールであると考えるほうが適切だと言えます。VBTの有効性についてのエビデンスもこうした視点で考える必要があると思われます。

 

参考文献
1. Garcia-Ramos A & Weakly J. (2025) What isVBT. In Velocity-Based Training, Prescribingand assessing the effects of resistance training,Edited by Garcia Ramos, Routledge.
2. 長谷川裕. (2021) VBTトレーニングの効果は「速度」が決める. 草思社
.3. 長谷川裕.(2024) ウェイトトレーニングにおけるパラダイムシフト. トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価 第17回. JATI EXPRESS,100:96-97.
4. González-Badillo JJ, Snchez-Medina L, Ribas-Serna & Rodriguez-Rosell D(. 2022)Toward anew paradigm in resistance training by meansof velocity monitoring, Sport Med Open, 8(1):118.
5. Morris S B. (2008) Estimating effect sizesfrom pretest-posttest- control group designs.Organizational Research Methods 11(2): 364-386.
6. 城下彰宏, 片岡裕貴. (2021) メタアナリシスの統計解析手法, 心身医学, 61(8):694-700.
7. Liao KF, Wang XX, Han MY, Li LL, Nassis GP,&Li UM. (2021) Effects of velocity basedtraining vs. traditional1RM percentage-basedtraining on improving strength, jump, linears p r i nt a n d c h a n g e o f d i re c t i o n s p e e dperformance: A Systematic review with metaanalysis.PLoS ONE 16(11).
8. Orange ST, Hritz A, Pearson L, Jeffries O, JonesTW & Steele J. (2022) Comparison of theeffects of velocity-based vs. traditionalresistance training methods on adaptations instrength, power, and sprint speed: A systematicreview, meta-analysis, and quality of evidenceappraisal. Journal of Sports Science. 40(11):1220-1234.
9. Hickmott LM, Chilibeck PD, Shaw KA &Butcher SJ. (2022) The effect of load andvolume autoregulation on muscular ctrength andh y p e r t r o p h y : A s y s t e m a t i c r e v i e w a n dmeta‑analysis. Sports Medicine - Open 8:9.
10. Zhang M, Tan Q, Sun J, Ding S, Yang Q, ZhangZ, Lu J, Liang X & Li D.( 2022) Comparison ofvelocity and percentage-based training onmaximal strength: Meta-analysis. InternationalJournal of Sports Medicine 43: 981–995.
11. Held SH, Meyer T & Donath L. (2021)Improved strength and recovery after velocitybasedtraining: a randomized controlled trial.International Journal of Sports Physiology andPerformance. 16:1185-1193.
12. Montalvo- Pérez A, Alejo LB, Valenzuela PL,Gil-Cabrera J, Talavera E, Lucia A, andBarranco-Gil D. (2021) Traditional versusvelocity-based resistance training in competitivefemale cyclists: a randomized controlled trial.Frontiers in Physiology. 12.
13. Pareja-Blanco FF, Sánchez-Medina L, Suárez-Arrones L, and González-Badillo JJ. (2017)Effects of velocity loss during resistancetraining on performance in professional soccerlayers. International Journal of SportsPhysiology and Performance,12:512 -519.
14. Jiménez-Reyes P, Castaño-Zambudio A,Cuadrado-Peñafiel V, González-Hernández JM, Capelo-Ramírez F, Martínez-Aranda LM,and González-Badillo JJ. (2021). Differencesbetween adjusted vs. non-adjusted loads invelocity-based training: Consequences for strength training control and programming.PeerJ, 9.
15. Orange ST, Metcalfe JW, Robinon A, ApplegarthMJ, & Liefeith A. (2020) Effects of in-seasonvelocity-vasus percentage-based training inacademy rugby league players. InternationalJournal of Sports Physiology and Performance.15(4):554-561.
16. Dorrell MF, Smith MF, & Gee TI. (2019)Comparison of velocity-based and traditionalpercentage-based loading methods on maximalstrength and power adaptations. Journal ofStrength and Conditioning Research. 34(1):46-53.
17. Banyard HG, Nosaka K, Vernon AD, & Haff GG.(2018) The reliability of individualized loadvelocityprofiles. International journal of sportsphysiology and performance. 13(6): 763-769.
18. 長谷川裕(2022) 得られた測定値の変化の大きさに意味があると言うためには?トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価 第4回. JATIEXPRESS 87:14-17. https://sport-science.jp/blog/detail/20220713164947/
19. Banyard HG, Tufano JJ, Jonathon J S, WeakleyJS, Wu S, Jukic I & Nosaka K.( 2021) Superiorchanges in jump, sprint, and change-of-directionperformance but not maximal strength following6 weeks of velocity-based training comparedwith 1-repetition-maximum percentage-basedtraining. International journal of sportsphysiology and performance. 16(2): 232-242.
20. Ortega JAF, Reyes YGDL & Peña FRG.(2020) Effects of strength training based onvelocity versus traditional training on musclemass, neuromuscular activation, and indicatorsof maximal power and strength in girls soccerplayers. Apunts Sports Medicine. 55(206): 53-61.
21. Pareja-Blanco F, Sánchez-Medina, Luis Suárez-Arrones, L & González-Badillo JJ. (2017)Effects of velocity loss during resistancetraining on performance in professional soccerplayers. International Journal of SportsPhysiology and Performance, 12: 512 -519.
22. Held S, Speer K, Rappelt L, Wicker P & DonathL(. 2022)The effectiveness of traditional vs.velocity-based strength training on explosiveand maximal strength performance: A networkmeta-analysis. Frontiers in Physiology. 10.
23. Huang Z, Sun J, Li D, Chen C & Wang D.(2025) Autoregulated resistance training formaximal strength enhancement: A systematicreview and network meta-analysis. Journal ofExercise Science & Fitness. 23: 360-369.
24. 長谷川裕(2019) “フィットネス- ファティーグ理論”の真実. JATI編著「スポーツトレーニングの常識を超えろ」所収. 大修館書店,
25. Murad MH, Asi N, Alsawas, & Alahdab MF.(2016) New evidence pyramid. Evidence-Based Medicine 21:125-127.
 

 

コメント・ご意見・ご感想・お問い合わせ

<個人情報の利用目的>
お客様よりお預かりした個人情報は、以下の目的に限定し利用させていただきます。
・本サービスに関する顧客管理
・本サービスの運営上必要な事項のご連絡

<個人情報の提供について>
当店ではお客様の同意を得た場合または法令に定められた場合を除き、
取得した個人情報を第三者に提供することはいたしません。

<個人情報の委託について>
当店では、利用目的の達成に必要な範囲において、個人情報を外部に委託する場合があります。
これらの委託先に対しては個人情報保護契約等の措置をとり、適切な監督を行います。

<個人情報の安全管理>
当店では、個人情報の漏洩等がなされないよう、適切に安全管理対策を実施します。

<個人情報を与えなかった場合に生じる結果>
必要な情報を頂けない場合は、それに対応した当店のサービスをご提供できない場合がございますので予めご了承ください。

<個人情報の開示・訂正・削除・利用停止の手続について>
当店では、お客様の個人情報の開示・訂正・削除・利用停止の手続を定めさせて頂いております。
ご本人である事を確認のうえ、対応させて頂きます。
個人情報の開示・訂正・削除・利用停止の具体的手続きにつきましては、お電話でお問合せ下さい。

お名前
コメント
メールアドレス
該当ブログ記事
評価
お問い合わせ内容
希望記事