トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#28 トレーニング指導者養成課程における データ活用能力の教育
2026/04/13
テクノロジーの進化によって、トレーニング指導の現場においては、さまざまな運動能力や機能を現場で測定し、得られたデータを活用して課題解決に当たる能力が求められるようになってきている。そしてそれは、スポーツ・健康科学系の大学や専門学校でも共通理解となりつつあり、実習形式の授業も行われるようになってきている。一方で、そうした授業を展開するためにはまだまだ多くの課題があるのも実情だ。そこで今回は、筆者がこの数年間実際に行ってきた授業やゼミの内容と授業の進め方について紹介したい。
1. 教員の負担を少なくしていかに効率よく学生に学ばせるか
今日、テクノロジーの進化によって、かつては実験室でしか得られなかったデータが、現場で手軽に取得できるようになってきています。その結果、指導の現場において、実際にさまざまなデータを取得し、それによって個々人の課題を明確化し、トレーニングプロセスそれ自体をモニタリングしながらトレーニング指導を進めていくというスタイルが当たり前になっていくと考えられています。
そのため、これからのトレーニング指導者には、実際にさまざまな運動能力や機能を現場で測定し、得られたデータを活用して課題解決に当たる能力が求められるようになってきています。
スポーツ・健康科学系の大学や専門学校でもこのことは共通理解となりつつあります。したがって、授業やゼミ活動において、各種の運動能力やパフォーマンスを測定し、取得したデータを処理して解釈し、トレーニング課題を導き出したり、トレーニングプログラムを組み立てたりするといった実習形式の授業も行われるようになってきています。
しかし、そうした授業を展開するためには、さまざまな運動能力やパフォーマンスに対応した各種の個別機器の操作方法それ自体の習得や、データの前処理に時間を要し、教員の負担も大きくなりがちです。その結果、学生がデータを取る意義や必要性を身をもって体験することや、得られたデータの科学的な理解や解釈をすることまでなかなかつながらないという問題があります。
そこで今回は、専門学校や大学の授業やゼミで私自身がこの数年間実際に行い、その簡便性と有効性が確かめられてきた授業やゼミの内容と授業の進め方を紹介したいと思います。
2.単一のシステムを用いてデータを取得しながらさまざまな運動能力や機能についての理解を深める
この方法の最も大きな特徴は、さまざまな運動能力に対応した個別の測定機器を用いるのではなく、OUTPUTという1種類のIMUデバイスだけを用いて、バイオメカニクスや運動医学に関する運動機能やパフォーマンスのデータを取得しながら授業を進めるという点にあります。
それによって、機器の準備のための時間を極力減らし、授業を進めるにつれて学生たちが習熟していくシステムの操作によって、さまざまな角度から各種の運動能力について実際に自分たちのデータを取りながら体験的に理解を深めていくことができます。
測定結果がすぐにその場で各自のスマホにわかりやすい形で表示されるため、実際に行った運動パフォーマンスの微妙な違いによってどのような数値が示されるかがすぐにわかります。そのため、自分が行った動作の違いや、友達との比較によって、示されるデータについての洞察が深まります。
またすぐに保存されるデータを用いてデータ処理の仕方を指導することもでき、最終的に評価のためのレポート作成までつなげることができます。
2. グループ活動による主体的学習
4~5名を1グループとして1台のOUTPUTセンサーを用いると、5グループなら20~25名のゼミや授業を展開することになります。さらに受講人数が増えてもグループ数を増やすことで、クラス全体を同じように指導しつつ、グループごとに効率よくデータを取ることができますから、「お客さん」を出さずに効果的な授業を進めていくことができます。また常にリーダーボードが表示され、クラスの誰かが試行する毎にデータが更新され順序が入れ替わり、クラス全体が大いに盛り上がり、あっという間に90分が過ぎます。
その教育機関で取得した1つのアカウントを共有することで、それぞれのOUTPUTセンサーに接続した測定用のスマホだけでなく、教員も学生も自分のスマホで同じデータに常にアクセスできます。
自分たちのグループのデータはもちろん、授業に参加している他のグループのメンバーがどのような数値を出したかもリアルタイムで見ることができるため、グループ間の交流を通して、動作の特徴を多角的に分析できるようになります。
毎時間、ひとつのテーマについてその運動機能のもつスポーツや日常生活やリハビリテーションにおける役割や意義、そしてどのようなデータを取得するかを最初に教員が説明した後、学生は実際にデータを取得していきます。教員は各グループを回って指導することになりますが、少し離れた場所で測定をしているグループの状態もその場で確認することも可能です。必要に応じて、授業の途中で全体に対して新たな事項の説明や注意喚起をしていきます。
個々のさらに高度な内容は別の科目で深めるとして、運動機能を測定することの意義や基本的なスキルについて修得させることが、この授業の最終的な目的となります。
OUTPUTシステムそれ自体については本誌で2023年に紹介してします(長谷川裕、「シンプル&ポータブル、かつ高性能IMU1台だけでのマルチ運動機能評価システムの活用」J AT IExpress,Vol.90, 8-14.2023)のでそれを参照いただくとして、以下、授業の具体的な内容と方法について説明いたします。
3. 授業の進め方(例)
1回目 導入
運動機能を客観的に測定する意義と方法についてのイントロダクション。トレーニング指導においてデータを取得し分析することでトレーニング課題を明確化し、リアルタイムフィードバックによってモニタリングしながら進めることの重要性や効果について講義する。2回目以降の授業の進め方と評価方法についても説明する。
2回目 準備
取り組んでいる種目や運動経験が混在するようにグループ分けを行う。各自にOUTPUT Captureアプリをダウンロードさせ、アカウント設定を行い、センサーの付け方やOUTPUTシステムの操作方法とアプリの見方を確認する。センサーの取り付け位置や方向、各テストの正しい動作についての説明はアプリ内の動画にアクセスすることで確認できることや、測定時に被験者を選ぶことを忘れないようすること等を強調する。
3回目 バランス
バランス能力の意義およびバランスに影響する生理学やバイオメカニクスの基本を説明した後、両脚/片脚、開眼/閉眼等でどのような結果になるかを実際に試す。単なる姿勢保持の秒数ではなく3次元加速度の分散で示されるバランス指数という評価項目を用いていることに着目させる。
4回目 スタビリティー
前回のバランス指数と同じ指標による評価方法により、各種のプランクにおける体幹のスタビリティーを評価する方法を実習する。シングルレッグのグルートハムブリッジやサイドプランクにより左右差についても調べさせることができる。
5回目 モビリティー・可動域
頸椎、胸椎、足関節、膝関節、股関節のさまざまな姿勢でのモビリティーと可動域を、ゴニオメーターを使わずに客観的に再現性の高い値を取得する方法を学ぶ。機能解剖学の関節運動の面と軸を踏まえて正しい位置にセンサーを取り付けて代償動作に注意して関節可動域を正しく評価することに留意させる。またストレートレッグレッズ、ニーツーウォール、トータップテストなどの柔軟性評価にも取り組ませる。
6回目 VBT(バーベル速度)
OUTPUTによるVBTのリアルタイム表示はシンプルにピークまたは平均速度だけだが、セット終了後ただちに平均とピークの絶対および相対的筋力、エクセントリックの平均及びピーク速度と時間、仕事量や推定の垂直変位等を確認することができる。速度のリアルタイムフィードバックだけでVBTの基本的な学習をさせることも可能。速度ゾーンを設定したり、速度低下率を設定したヴェロシティーロスカットオフ(VLC)の方法についても学ばせる。
7回目 角速度
VBT角速度という関節角度の変化のスピードを調べることについて学ばせる。座位でのレッグエクステンションや伏臥位でのハムストリングカール、レッグエクステンションなど、これまで計測が困難であったエクササイズの関節角速度の平均とピークを測定すると同時に可動域も確認させる。リハビリテーションにおける目標設定やROMのコントロールにとって重要な指標を計測する意義や方法について学ばせることができる。
8回目 筋持久力
プッシュアップ、懸垂、カーフレイズ、スクワット(自体重)等における平均とピークの角速度とピーク速度を計測するが、目標可動域を設定しておくことで、それを下回ると警告音が鳴りデータも赤く表示される。可動域を維持したまま目標とする角速度を維持するという持久性の評価方法を学ばせる。このような評価によりリハビリテーションにおける目標設定やモニタリングができることを体験させる。Askling Hテストというハムストリング受傷後の復帰判断で使われるROMと角速度を合わせたアクティブな柔軟性テストもここに含まれている。
9回目 ジャンプ
カウンタームーブメントジャンプとスクワットジャンプを両脚、片脚、腕振りの有無で測定し、反動動作や左右差について分析する。跳躍高の他に滞空時間と離地速度が表示されるため、それらの数値から計算をしてみることで跳躍高を求める力学的原理について納得させることもできる。センサーは前足部に装着する方式なので、滞空時間を正確に測定することが重要であることにも気づかせる。
10回目 反応筋力:RSI
ドロップジャンプと連続ジャンプを両脚または片脚で行い、その接地時間と滞空時間から計算された跳躍高、滞空 時 間 / 接 地 時 間 、 そ し て R S I(Reactive Strength Index)が表示される。それらの1ジャンプごとの値がグラフとともに合わせて同時に確認することができるので、それらの関係について多角的に分析させることもできます。ドロップジャンプの落下高を変えてそれらの値がどのように変化するか、それはなぜなのか、そこからトレーニング指導にどのような示唆が得られるかなどを考察させるとよい。10ジャンプ中のRSIのベスト5の平均値を自動で取得するための10-5テストも用意されている。
11回目 コンタクト
バウンディングやホッピングなどいかに接地時間を短縮しつつ滞空時間を増大させるかがトレーニング課題となるプライオメトリクスの接地時間と滞空時間とその比率を計測する。ミニハードルを用いたハードルホップのように接地時間の短縮にフォーカスしたトレーニング指導において何をどのようにモニタリングするべきかや、左右差を考察させることができる。また、スプリントでは接地時間に対する滞空時間の比率であるドライブインデックスという指標を得ることができるので、実際の走る動作の分析に取り組ませることも可能。
12回目 メディシンボール
ケトルベルのスウィングとメディシンボール投げおよびスラムに対応した測定カテゴリーだが、特にメディシンボールスローとスラムが扱いやすい。チェストスロー、オーバーヘッドスロー、ローテーションなど様々なエクササイズで発揮されるピーク速度とピーク加速度を測定する。投射角度に影響される投擲距離ではない評価法の重要性を理解させる。手首にセンサーを装着して測定するため、どんなボールにも対応する。様々な重さのメディシンボールを用いて重さと速度の関係を調べさせたり、動作の違いと速度の関係を分析させたりする。
13回目 ノルディックハム
ハムストリングの肉離れの発症率とノルディックハムストリングカール(NHC)におけるピークエクセントリック筋力との間に高い相関があるとい う 研 究 結 果 に 基 づ く テ ス ト 。OUTPUTではNHCの下降速度が急激に上昇するポイント、すなわち膝関節における最大角加速度が生じる角度とピークエクセントリック筋力との高い相関関係に着目することにより、最大角加速度が生じる角度でリスク評価をする。片脚ずつの評価はできないが、ハムストリングの肉離れとエクセントリック筋力についての理解を自らのデータを取ることで深めることができる。
14回目 データ処理と基礎統計
ここまでの授業で取りためたクラス全員のデータにアプリからアクセスする方法と、それらをエクセルに転記して処理する方法を指導する。50名以上が登録可能なOUTPUT HUBを利用できる場合はデータをエクスポートする方法やソフトウエア上で多角的分析を行う方法を説明する。必要に応じて、標準偏差の意味や求め方、比較や変化のための棒グラフや折れ線グラフ作成、相関を分析するための散布図や相関係数の求め方などの基礎的統計処理について指導する。授業中に各自のPCで体験させるのも効果的。最終的にレポートの作成について課題を出す。
15回目 レポート提出とウェルネス調査法
最終回はレポート提出日とし、必要に応じて授業の総括を行う。ウェルネス調査についてもここで触れる。
5.導入に必要な予算
OUTPUTを利用するにはセンサーだけではなくライセンス契約が必要です。選手登録が10名までの契約ではアプリ上ですべてのデータにアクセスすることはできますが、データのエクスポートはできません。50名まで登録可能なHUB STARTERならPCのクラウドに単一アカウントで誰でもアクセスできますからすべてのデータを多角的に分析したり必要なデータをエクスポートしたりすることができます。
センサー1台と部位別のベルト及びキャリーケースのセット価格は143,000円、年間ライセンスは、10名までの最小限のプランが93,500円、HUB STARTERは330,000円となっています。センサー5台以上の教育機関の場合は割引制度があります。※2026年5月現在
OUTPUT の詳細は下記をご覧ください。
https://sandccorporation.com/output