トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#29 英文のスポーツ医科学論文を日本語で検索して読もう

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トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#29 英文のスポーツ医科学論文を日本語で検索して読もう

2026/05/29

最先端の研究論文にアクセスし、何がどこまで明らかにされているのかを知ろうとしても、トレーニングやスポーツ医科学にかかわる研究雑誌の論文はほとんど英語で書かれている。そこで今回取り上げるのは、今年の1月にリリースされたばかりの、“Evidence Box”という日本語による海外スポーツ医科学情報検索・内容紹介サービスだ。これによって、世界中のスポーツ医科学関連雑誌の中から知りたい情報を日本語で検索し、その概要を日本語で取得することが可能となる。

1.ワープスピード

 35年以上前、私がCSCSの受験をするにあたって必読の書とされていた“Designing Resistance Training Programs”(1987年発行)の引用文献数は、375本でした。その10年後の同書第2版では、それが770本に増え、2004年の第3版では1295本、さらに10年後の2014年の第4版では1700本に達しました。

 同書の第3版は、日本語版が出ており、その序文で著者の1人、ビル・クレーマー博士(現オハイオ州立大学教授)は、このレジスタンストレーニング分野の研究の進歩の速さは光よりも速いワープスピードだと表現しました。

 それからすでに20年、レジスタンストレーニング以外の研究も含めたトレーニング全般やスポーツ医科学についての研究論文数は膨大な数に到達しており、さらに日々更新され続けています。

 

2.最新の科学的情報は論文にある

 私たちが何らかのトレーニングを計画し実行しようとする際、どんなトレーニングをどのように進めていくべきかについて判断するためには、なんらかの手掛かりが必要です。科学的に効果のあることが確かめられている方法があるならそれに依拠しようとするのは当然のことです。

 かつては、大学や専門学校で学んだ知識や原則、テキストや参考書に載っていた事例、資格試験で答えた正解がその拠り所だったかもしれません。しかし今日、ワープスピードでスポーツ医科学情報は日々更新されています。

 これまでのトレーニング科学は、誰にでも同じように効果的なトレーニング方法一般というものはなく、目的や対象者や条件の違いによって効果的なトレーニング方法は異なることを明らかにしてきました。また、個々の能力、例えば、筋力ひとつ取ってみても、動作速度や時間や身体部位や関節角度等々の条件が違えばそのトレーニング方法も評価方法も異なり、各種のパフォーマンスへの転移特性も異なることを数多くの研究が明らかにしています。

 これはスプリントスピードやジャンプ力やアジリティーや持久力や柔軟性やバランスにおいてもまったく同じことです。スポーツ種目やポジションによってもその位置づけは大きく異なり、個々の能力やその組み合わせによるト
レーニング効果についても数々の研究によって明らかにされてきています。

 また、様々なスポーツ種目においてどんな外傷や障害が発生しやすいか、予防するにはどうするのがよいのか、効果的なリハビリテーションはどういうものかといった研究も進んでいます。

 さらに、トレーニングスケジュール、リカバリー方法、食事やサリメント、パフォーマンスやコンディショニング評価の指標等々、一般的な教科書には書かれてないけれども実践活動に直結するさまざまな問題について、世界中の研究者や指導者によって科学的に確かめられた研究結果が、科学論文という形になって日々発信され続けています。スポーツ医科学分野の研究者数の世界的な増加と相まってその種類と数は今後ますます増加していくことは明白です。

 したがって、私たちがトレーニング指導やスポーツ医科学について拠り所となる最新の科学的根拠のある情報を得るには、こうした科学論文に直接アクセスするのが最も適切だということになります。

3.英語論文を日本語で検索しよう

 しかし、いざそうした最先端の研究論文にアクセスし、何がどこまで明らかにされているのかを知ろうとしても、トレーニングやスポーツ医科学にかかわる研究雑誌の論文はほとんど英語で書かれています。日本の学会誌もありますが、それだけの情報に限定されてしまうと、情報や知識の量という点で大きな遅れをとってしまいます。

 世界には“Sport”という単語が雑誌名に含まれるスポーツ医科学系の研究誌は約150種類あります。それらの雑誌名には“Exercise”や“Fitness”いった言葉と組み合わさったものもあり、”Sport”という言葉が含まれていないそれらの研究誌が約30種類あります。また、“Athletic training” “Reha b i l i t a t i o n” “ C o n d i t i o n i n g ””Strength”といった言葉が雑誌名に含まれる研究誌や、スポーツ医科学に関する論文がよく掲載される“Physiology ” や“ B i o m e c h a n i c s ” あるいは ”Bioengineering”や”Neuroscience“といった言葉がタイトルになっている雑誌、さらに栄養についての”Nutrition”関係のものも含めるとその数は軽く250種類を超えてきます。これらの雑誌でそれぞれ毎月あるいは隔月でおびただしい数の論文が公表されているのです。

 これらの論文の中から知りたい情報を得るもっとも有力で確実な方法は、インターネットから信頼のできる専用のデータベースにアクセスすることですが、利用できるデータベースもまた英語であり、キーワードそれ自体も英語で入力する必要があります。知りたい内容が英語ではなんという単語なのか、関係する研究ではどういうキーワードが使われているのかを調べ、なんとか英語で検索でき論文が表示されたとしても、表示される論文情報は英語ですからそれをすべて読むということは決してたやすいことではありません。

 この一連の作業が日本語で可能になれば、これまで以上により多くの情報にアクセスでき、知りたいテーマについてより深く掘り下げることができるようになります。

 そこで今回取り上げるのは、今年の1月にリリースされたばかりの、日本語による海外スポーツ医科学情報検索・内容紹介サービスです。これによって、上述した世界中のスポーツ医科学関連雑誌の中から知りたい情報を日本語で検索し、その概要を日本語で取得することが可能となります。

 

4.Evidence Boxの特徴と使い方
(表、及び図1、2参照)

 

 

●権威ある検索エンジンとの連携

 Evidence Boxというこのサービスは、米国国立医学図書館(NLM)が運営する、生物・医学・生命科学分野の文献を検索できるきわめて高い信頼性を誇る強力なデータベースであるPubMed Central(PMC)と連携し、そのうちのスポーツ医科学関連の論文を日本語で検索・表示できるようにしています。

 PMCには、現在約700万件の査読済論文が収録されていますが、そのうちスポーツ医科学関連の論文は約100万件におよんでいます。その膨大な論文の中から、入力したキーワードに関連する論文が絞り込まれて表示されるのです。

 今後さらにその抽出の幅を広げ精度を高めつつ、最新論文が継続的に更新されていくことになっています。

●キーワード検索とベクトル検索
 PMCそれ自体はキーワード検索によってその単語が含まれる論文のタイトルを見つけ出して列挙しますが、Evidence Boxでは、この検索スタイルに加えて、ベクトル検索にも対応しています。そのため自由入力された文章の意味や文脈の近さからも関連論文を探してきます。


 例えば、スプリントのスタートダッシュ力にどのような要因が関係しているのか、どのようなトレーニングが効果的か、ということを調べようと思ったら、そのまま「スプリントのスタートダッシュ力を強化するには」と入れれば、65件がヒットし、肩甲骨の挙上動作が初期加速度に貢献することや、ウォーミングアップでダイナミックストレッチをしてからドロップジャンプを行うことで高いパフォーマンスが得られるといった検索前には考えたこともなかったような情報や、重いスレッド牽引トレーニングが加速能力を向上させるというトレーニングに関する情報、あるいは光電管を用いたテストに
おけるフライングスタートの影響といった測定・評価に関する論文などが出てきます。そのため知りたかったことに関係する幅広い情報を一度に得ることができます。

 スプリントのスタートダッシュ力に関するウェイトトレーニング効果を調べたければ、ウェイトトレーニングという言葉を入れることで、加速力に及ぼす相対的負荷の違いに関する論文等が出てきます。

 これらがすべて日本語で表示されますから、英語を読むよりも知りたい情報が確実に素早く目に飛び込んできます。短期記憶にも残りやすいですから、個々の論文内容の微妙な違いや複数の論文にまたがるような理解も一気に深まるでしょう。

●要約(アブストラクト)

 検索結果に示された論文のタイトルの下には著者、出版年、掲載雑誌名が示され、その下に要約の一部が示されます。タイトルをクリックすると要約の全体を読むことができます。科学論文には必ずその冒頭にAbstract(要約)をつけることが慣例とされていますが、Evidence Boxに表示される要約は、元論文のAbstractの翻訳ではなく論文全体からの情報をもとに再構成された要約であるため、より分かりやすいものになっています。 

 プロの研究者もすべての論文の全体を常に最初から最後まで読んでいるのではなく、まずアブストラクトを読んで、そのポイントをつかみ、論文全体を読むべきかどうか判断しています。ここには必ず研究の背景、目的、具体的な方法(対象者や人数やトレーニング方法や測定方法など)、結果(重要なデータ)、そしてそこから何が言えるのかという結論が要領よくまとめられており、一定の記述パターンに慣れれば数分で読み終えることができます。

●AI解説によるポイントと活用方法

 Evidence Boxでは、アブストラクトだけではなく、AIによって、その論文の研究結果のポイントと明らかになったことが3項目で簡潔にまとめられ、そこから何が言えるのか、得られた知識は実践的にどのように活用できるのか、といった示唆や具体的な推奨事項も3点に絞り込んでわかりやすく示されます。

 さらに、アブストラクトの難しい表現をわかりやすく嚙み砕いて全体の要点をまとめた1~2分で理解できる解説文を読むことができます。

●カスタムフィルターによる絞り込み

 キーワード検索やベクトル検索によって関連論文が抽出されるのですが、少しでも関係する内容を持つ論文がすべて表示されるため、情報が拡散してしまい、効率よく目的の情報に到達できなくなることがあります。そこで本当に知りたいものだけに絞り込むためのフィルターが用意されています。

 まず、過去何年の間に行われた研究に絞り込むという年代によるフィルターをかけることができます。 次に、分野と競技種目によるフィルタリングが可能です。例えば分野には、パフォーマンスに関すること、傷害予防に関すること、コーチング、栄養、心理に関することといった9種のカテゴリが用意されています。競技にはサッカー、野球、陸上をはじめ全13種目から選ぶことができます。分野と競技のカテゴリを組み合わせて(それぞれ複数も可)フィルターをかけることで、効率よく必要な論文にアクセスすることができるようになります。

●閲覧履歴とブックマーク登録で独自のデータベースを作成

 Evidence Boxには、閲覧履歴を表示するページがあります。一度でも検索し中身を開いた論文は、最初から検索しなおす手間をかけることなく閲覧履歴からいつでもすぐに再確認することができます。また、お気に入りに追加したり削除したりが可能なブックマーク機能も用意されているので、履歴ページと合わせて自分独自のデータベースとしても活用できます。


●全文へのアクセスと日本語翻訳

 Evidence Boxが提携しているPMCは、もともと論文本体のフルテキストに無料でアクセスできるサービスです。ですからEvidence Boxから検索した論文もその全文を読むことができます。
記載されているURLをクリックすることでPMCのサイトでその論文本体が表示されているページに移行します。
そのままPDFとしてダウンロードし保存することも可能です。

 Google Chrome、Microsoft Edge、Safariなどのブラウザの標準機能を用いれば瞬時にPMCのページ全体が日本語に翻訳されて表示されます。さらに、Google翻訳やDeepLなどの翻訳ツールのブラウザ拡張機能を使えば、さらにより高精度な翻訳で全文を読めるようになります。原文と日本語訳を読み比べることで、背景や目的や方法や結果や結論の英語での記述方法や言い回し、その意味や訳し方の勉強になりますから、英語で論文を読もうとか書こうと考えている人にとっては極めてよい教材ともなります。

 

 

5.全文を読むことの大切さ

論文をフルテキストで読むことのメリットの一つは、要約には省かれることも多い研究の背景や先行研究の到達
点、その研究の独自性や意義についてより深い理解が得られる点にあります。しかしさらに重要ことは、全文を見ないと研究方法の詳細や詳しいデータがわからないということです。詳しい研究方法やデータがわからないと誤解や勘違いをするリスクが高くなるからです。アブストラクトには書いてない方法の詳細やグラフや表で示されたデータを見ることで、結論から得られる判断が大きく違ってくることもあるからです。
 例えば今日、ウェイトトレーニングにおける負荷重量を1RMのパーセンテージではなく、挙上速度で設定することが推奨される理由として、「1RMは体調やその他のトレーニングによる疲労等によって日々変動している」という研究結果や経験則があります。

 それに対して、果たして1RMは本当に変動しているのだろうか、1RMには信頼性がないのだろうかという疑問がわいたとします。もし1RMの値が安定しているのであれば、挙上速度を測らなくても、これまでと同様に
1RM測定を行って、常にその値のパーセントで負荷を設定すれば、それで何の問題もないことになります。
 そこで、1RMの安定性についてこれまで行われた科学的研究ではどのようなことがわかっているのかについて調べてみようとなったとします。「1RMの安定性」というキーワードをEvidence Boxに入れて検索すると、「1最大反復回数テストの再テスト信頼性のシステマティックレビュー」“Test–Retest Reliability of the One-Repetition Maximum (1RM)Strength Assessment: a SystematicReview”という2020年にSports Medicineという雑誌に掲載された論文が出てきます。
 この要約を読むと、1595名を対象とした32件の研究データの、ICCとCVという信頼性を示す統計値をもとに、トレーニング経験、テストへの習熟の有無、短関節か多関節か、上半身か下半身か、性別、年齢を問わず、1RMの値には信頼性がある、と結論づけられています。
 しかし、全文にアクセスして中身を詳しく読むと、次のようなことがわかります。まず対象者ですが、全32件の研究中、高齢者(パーキンソン病と心臓病患者を含む)が10件、トレーニング未経験者が10件、トレーニング経験者が10件で、アスリートを対象としたものは全体の3%に当たる1件だけです。人数で見ると、1595名中アスリートは81名で5%です。全32本の論文には、様々なエクササイズ種目を用いた個別研究が66件含まれていますが、そのうちスクワットを対象とした研究は6件、パワークリーンは2件、ベンチプレスは7件で、残りの77%に当たる研究が対象とした種目はマシーン種目やダンベルによる短関節エクササイズがほとんどです。そして2回実施した測定間隔は1~10日でその65%が2~5日。テスト期間中はその他一切の運動は禁止されています。

 この結果から判断すると、普段から他のスポーツのトレーニングも日常的に行っているアスリートの週2~3回のフリーウェイトを用いた一般的なウェイトトレーニングにおいて、1RMは信頼性があり常に安定しているとい
う結論を導き出すのはかなり無理があるといえます。

 このように、アブストラクトだけを読んで判断したことと、フルテキストで内容を詳しく吟味したこととでは大きなズレが生じることがあるので注意が必要です。Evidence Boxでは検索した全論文のフルテキストに簡単にアクセスできますから、気になった論文についてはぜひ全文を読んでみることをお勧めします。

6.もう「時間がない・英語が……」とは言っていられない

 これからのトレーニング指導には、これまで以上に厳密な科学的エビデンスが求められます。今回紹介したサービスは、ネット一般からの不正確な誤情報を含む可能性のある生成AIとは一線を画するものであり、最も正確で権威のある世界基準のスポーツ医科学論文データベースを基盤として構造化された日本語で利用できるシステムになっています。

 有料版でも月々わずか990円で、1日の閲覧数や保存可能数に制限はありますが、無料プランもあるようなので、まずは一度試してみることを強くお勧めします。 大学や専門学校等の教育機関や医療施設等で大人数が同時に利用可能な法人向けプランも、従来の学術情報検索システムと比べると大幅に低い価格設定となっています。

 将来的にはPMCに限定せず、全文にアクセス可能な他の論文データベースとの連携も検討されており、より広範かつ多角的なエビデンスへのアクセスが可能になると思われます。現在は初期リリース版で、翻訳の精度や表現、専門用語の訳語については改善の余地がありますが、すぐに利用する価値は大いにあるサービスには違いないといえます。

Evidence Box:エビデンスボックスはこちらから

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