『VBTにまつわる怪しい伝説』by Travis Marsh

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『VBTにまつわる怪しい伝説』by Travis Marsh

2022/07/25

著名なストレングス&コンディショニングコーチとして、アメリカの多くのプロアスリートや大学生アスリートを20年以上にわたって指導しワールドクラスの選手を育ててきたTravis Marshによる、「VBTにまつわるあやしい伝説」と題するブログ記事の要約をシェアさせていただきます。少し長くなりますが、ぜひお読みください。

「VBTにまつわる怪しい伝説」by Travis Marsh

この記事を書く機会をいただいて、今私はとてもワクワクしています。

なぜなら、VBTにまつわる怪しい伝説をはっきりさせるということは、長い間、私たちの業界で待望されていたことの1つだからです。

私はかつてVBTを採用していませんでした。どうしてかと言うと、当時私は他のどのコーチよりも自分のほうが賢いと信じていたからです。しかし、そんな私がVBTを導入し始めたは、私の指導法で果たしてアスリートが本当に常に安全にトレーニングできているか、そしてその能力を最大限向上させているかということを私自身がきちんと確かめたかったからです。

この3年間で私が学んだ最も重要な事実は、コーチとしての我々は、データによって客観的な測定をすることもできるし、経験によって主観的に推測することもできるということです。しかし今、私は世界でもトップレベルのウェイトリフティング選手をコーチしてますが、彼らは決して私に何らかの推測をしてほしいと思って来ているわけではないということです。ですから私はあなたが指導している選手もまた、あなたの主観による何らかの推測を求めて来ているのではないと言わなければなりません。

速度というものそれ自体は、トレーニング指導において全く新しいというものではありませんし速度について調べるのに博士の学位が必要なわけではありません。ですから、もし多くのコーチがほんの少し時間を取ってウェイトトレーニングおける速度というものについて理解できれば、VBTによって彼らの仕事がやりやすくなることに気づいてもらえると思います。それがこの記事で私が書きたいことの全てです。前置きはこのくらいにして、ではさっそくVBTにまつわる大きな誤解や思い込みを解き明かすことにしましょう。

1.VBTはエリートアスリートのためだけのものであって、例えば高校生のアスリートのためのものではない。

多くのコーチは、VBTは世界レベルのトップアスリートのための特殊で高度なトレーニング法だと信じておられるようです。しかしこれは真実ではありません。VBTは、どんなレベルのコーチングにおいても簡単に導入することができます。

もし私が高校の初心者を指導するとしたら、その選手に経験してほしい力の発揮水準というものを意識させるために速度を使います。例えば、可動範囲の全体に渡ってしっかりと加速し続けることを指導しようとしたら、速度を測って最大努力を発揮させるようにします。さらにもしトレーニングを安全に行いたいとしたら、例えば、0.45m/s以上の速度で3レップやるように指示し、速度が低下したらそれ以上はやらせません。こうしておけば絶対に危険なリフトになることはないので安心です。

もしあなたの指導している選手が、実は私もそういう時期がありましたが、注意欠如・多動症のような傾向を持っていたら、VBTはそういった選手とのコミュニケーションをとるのにも役立ちます。その選手にやってもらいたいことを口頭だけで指示するのではなく、iPad上に示された実際の速度を見せながら説明すれば、より簡単に確実に理解させられるだけではなく、その選手はその後もその数値にフォーカスしてトレーニングするようになります。

できるだけ多くの感覚を動員することによって学習過程は効果的なものになるということを私は卒業研究で取り組み、アパラチアン州立大学の大学院に進んだ時もそのことを追求しましたがもちろん当時はVBTはありませんでした。しかし、言うまでもなく、今日、速度を使うことでトレーニングセッションは楽しいものになります。このことは多くの人が思っている以上に重要なことなのです。VBTに取り組む選手たちが、お互いの速度を競い合って笑いながら楽しい時間を過ごしている時、彼らはまた真剣にエクササイズに取り組んでいる時間でもあるのです。それによって、将来にわたってトレーニングを継続したいという気持ちにさせ、より健康的でより生産的な生活につながるのではないでしょうか。

2.VBTは複雑で面倒だ。

もしこれが本当なら、私はとっくにVBTをやめています。1RMのパーセンテージで処方するよりもVBTのほうが実はずっと簡単です。例えば、16歳の選手に、85%1RMで3レップ×5セットを処方するということは、その選手の最大挙上重量の85%の重さで3回反復することを5セットすることになりますが、実際の1RMを確認し、その85%を計算する必要があります。VBTなら、0.5m/sになる重さを選んで最大3回、それを5セットやれと言うだけですから、きわめてシンプルです。常に速度を基準に処方する方が実際ずっと簡単なのです。

もしあなたが、エラスティックバンドやチェーンを好んで使うコーチなら、バネばかりを買ってきてトップポジションでの重さとボトムポジションでの重さを測らないと適切な負荷を設定できません。しかし私はそんなことはせず、ウェイトとバンドを取り付けて、設定した速度以下になるまで繰り返させるだけです。処方は同じです。画面が0.5m/s以下(例えばの話で他の速度の時もあります)を示すまで最大3回、これを5セット、と指示するだけです。

長期のオフ明けにトレーニングを再開する際の私の好きな処方に、ある高校のコーチから聞いた方法があります。それは、最初の週は0.65m/sとなる負荷で5回反復させ、次の週は0.6m/sに下げます。そして5レップできる限り、毎週速度を遅くして行くと言う方法です。この方法は、急性/慢性負荷率における危険な閾値を回避することができる非常に優れた方法であり、その時点で耐えられる以上に負荷が大きくなりすぎることを防いでくれます。急性/慢性負荷率における危険な閾値を無視するとケガにつながるリスクが高くなるのです。これまでトレーニングシーズンの開始直後にいかに多くのケガが発生していたかがこのことを物語っています。残念ながら、オフシーズンに全ての選手があなたの指示したトレーニングをしてくるとは限らないのですから。

下の表は、私が作成したチャートです。この表を使えば、スクワットとベンチプレスまたはデッドリフトの%1RMに対応したスピードが一目でわかります。このスピードになる重さを見つけてトレーニングすればよく、セット内でこの速度以下になったらセットを終了すればよいのです。

 

 

 

3.VBTを使うとトレーニング時間が余計にかかる。

 

私は大学で働くコーチに対して大いに共感を持っています。大きな大学のS&Cコーチの中には、1時間毎に30~50名のアスリートを指導する、という大変な仕事をしている人がいるでしょう。そんなコーチにとって今までのやり方の何かを変えるというのは大変骨の折れることだと思います。しかし幸いなことに、これから夏休みに入ると、私たちの多くは、一息ついて、なんらかの情報を収集したり論文を読んだりする余裕が生まれます

VBTをスムーズに回すためのカギとなるのは、他のプログラムのやり方でスムーズに回すための方法と基本的に同じです。それ以上の労力は必要ありません。最初の数日間は、オリエンテーションや教育のために時間をかけるのはどんな方法でも同じです。

 

もしあなたが1RMのパーセンテージでトレーニングを処方しているなら、5×3@85%というのは、1RMつまり最大挙上重量の85%の負荷で3レップを5セットすることですよ、というのを選手に説明しなければなりません。そして1RMの測定の仕方を指導し、iPhoneや計算機または作成したシートから、その85%の重さを計算する方法を指導しなければなりません。さらに、選手の進歩の度合いをあなたがチェックしていくのに必要な記録ノートの付け方や管理の仕方を教える必要があるでしょう。この記録のモニタリングがなければ、私たちの仕事は何をやっているのか、成果が出てるのかそうでないのか、何もわからなくなるからです。

VBTなら、初日にやりたいことはこれと同じでもプロセスが大きく変わります。まずトレーニングの初日に、iPadを持っていきます。そして、負荷の入力と変更の仕方、速度の設定方法を教えます。クラウドにアクセスできるなら、数名の選手のオートスキップを設定したグループを作成しておくとスムーズに順序良くそれらの選手のトレーニングを進めていくことができます。各セットで使用するウェイトの重さが同じなら、同じ種目のエクササイズをしている間は、もう一度画面に触れる必要は全くありません。


VBTで一番いいと思うのは、選手がいちいちトレーニングの記録を付ける必要がないということです。記録用紙はもちろん、スマートフォンにさえ入力する必要はありません。すべてがクラウドに自動的に保存されていきます。それによって必要なデータの活用、例えば急性/慢性負荷率における閾値をモニターしたり、効果量を計算したり、トレーニングにおける緊張度と単調度を確認したり、相対的強度を計算したり…といったすべての可能性は無限大にあると言っても過言ではありません。トレーニングで使用している負荷の重さから常に1RMを推定できるのですから、もう二度とトレーニング効果を1RM測定によっていちいち追跡する必要もありません。あなたとあなたの指導している選手のためのトラッキングの作業は、VBTのデバイスとクラウドが全てやってくれるからです。

 

4.LPTは時代遅れだ。

 

研究論文を読んだことのある人ならこれが間違いであることはすぐに気づくはずです。速度というものは、物体が移動した距離をそれに要した時間で割ることで測定されます。このことを最も正確かつ高い精度で行うための方法が、リニアーポジショントランスジューサ(LPT)を使うことなのです。細いケーブルをバーに取り付けて距離を測りますが、中でも角度センサーがついた機器ならx軸とy軸の位置の変化からより正確な垂直移動の速度を測定をすることができます。

加速度計タイプの機器は、装置の振動によって得られる加速度を独自のアルゴリズムで速度に変換するための電子機器です。ただ、LPTと比較すると、現在市販されている加速度計の妥当性を直接的に証明した研究の数はやや少ないと言えます。

カメラシステムはかっこいいと思いますがとても高額です。ハイスピードカメラは映像から速度の推定を行いますが、ゴーストレップと呼ばれるエラーが時折発生することが問題で、正確性にもまだ問題が残ります。

私が指導している選手はウェイトリフティングのトップレベルの選手ですから、正確性と信頼性が機器選択の最大の基準となります。ですからゴーストレップが発生したり、正確性や精度が少しでも問題となるデバイスは、私の場合はオプションになりません。
もうひとつレーザーを使用した機器もあります。私はLPTとレーザーをこの2年間平行して使用していますが、非常に近い数値データが示され、トレーニング指導においても、また研究においても十分満足できる結果を出しています。



5.VBTとは、スピードトレーニングやダイナミックエフォートトレーニングと同じだ。

 

この思い込みはすごく大きな勘違いです。これまでに様々なトレーニング方法が提唱されてきましたが、そのなかでスピード筋力や筋力スピードといったパワートレーニングに関するものがありました。そこでは質量とスピードの関係が重視されますから、素早く挙上するという挙上速度の重要性が強調されたことは事実です。しかし、VBTとは、速度をトレーニングの基準として用いるというだけで、高速で行うトレーニングだけに限定されたものではありません。低速しか出せない高重量で行う最大筋力トレーニングにおいてもVBTが用いられています。VBTというのは、選手に発揮させたい挙上速度を測り、実際に選手が発揮している速度をチェックするというシンプルなものです。ですから、VBTではスピード筋力のトレーニングもしますし、絶対的な最大筋力を向上させるためにも行います。VBTは特別なトレーニング法の一種ではありません。あなたが指導したい方法が適切に実施されているかどうかを客観的に知るためのツールです。それ以上でも以下でもないのです。

6.VBTのためのデバイスは値段が高い。

 

S&Cコーチは、スクワットラックやバーベルやプレートを買うために何も気にせずパッと数千ドルを使います。ですから、VBTの機器が高いという人に対して、私は「ああこの人は単にVBTの使い方を知らないだけなんだな」と思います。もしこういう人たちが、私の論文「高校のS&CコーチのためのVBT」「VBTとメンタルヘルス」「VBTと女子アスリート」等々を読んでくれれば、VBTというものがウェイトルームの中で最も用途の広い役立つツールだということがわかっていただけると思います。

 

私は今、プロフェッショナルとしての人生の大部分をVBTの研究とテストと使用のために費やしています。それは、VBTによって私が指導する選手たちの安全性を確保しつつトレーニングにおけるすべての側面における質を高め、トレーニングの結果だけでなくその過程にフォーカスするためですVBTよって身体的のみならずメンタル的にも健康なアスリートに成長させることができています。そしてさらに重要なことは、これによってスポーツそれ自体を発展させることができるのです。

いったんこのことを理解していただければ、VBT機器の値段は決して高すぎるものでないということに賛同していただけると思います。

 

私がGymAwareというVBT機器を使い始めたのは数年前ですが、この間、10年以上GymAwareを使っているという多くのユーザーにお会いしてきました。そしてその人たちが言うには、GymAwareは、これまでずっと、そして今もゴールドスタンダードだというのです。1000名近い選手を相手にデータを重視するコーチはにとって、他の類似したデータ管理システムに比べれば十分にリーズナブルな価格だと言えます。これまでに10年以上にわたってこのシステムを使い続けてきたユーザーの数がそのことを証明しています 。

私の施設はそんなに大きくありませんが、世界トップレベルのウェイトリフティング選手を抱えています。ですからゴールドスタンダード機器であるのGymAwareを使うに値すると思い、そのための予算を取っています。

私は決してGymAwareのセールスをしているわけではなく、コーチに役立つことを教えているのです。私の論文を読んでいただければそのことを理解いただけると思います。

アメリカにおけるウェイトリフティングは、この6年間で過去50年と比べて目覚ましい進歩を遂げています。すべてのトップレベルのコーチがVBTを用いています。中国に対抗するには推測でトレーニングしているわけにはいかないのです。

私は2019年にVBTを導入しましたが、2020年にはすべての選手に一日も欠かさずVBTを用いるようになりました。現在ジュニアワールドカップアメリカ代表のRyan Grimslandは、2020年にVBTに取り組み始めたのですが、その時彼は私の指導する多くの選手のうちの1人にすぎず、トップレベルというわけではありませんでした。しかし今日、2022年の時点で彼は、アメリカを代表するトップレベルの選手になったのです。彼は現在、世界記録にチャレンジしています。これはまさにVBTによるものです。VBTによって、やり過ぎにならないようなちょうどよい負荷を掛ける方法を知ったのです。彼はまだまだ強くなれますしそのためのエネルギーを持ち合わせています。

こんなことが可能のはVBTを用いているからです。ですからVBT機器は決して高価だとは思いません。

 

7.VBTによってトレーニングルームがビデオゲームセンターになってしまう

 

少し変ですが、こんな風に誤解するコーチもおられるようです。VBTは実際はこれとは全く逆です。VBTのクラウドを用いてトレーニングを開始すると、選手はセット毎の記録を付ける必要はありません。つまり、個人のスマートフォンを触る必要も機会もありません。グループが設定されているチームのiPadにタッチするだけです。グループをセットしオートスキップに設定しておけば、使用する負荷の重さを変更する必要が生じた場合に入力するだけです。iPhoneやiPadのスクリーンは、S&Cコーチにとって、選手にリアルタイムフィードバックをしたり負荷の増減を指示するための第2の目となります。スマホやタブレットを使うからと言って遊んでいる暇は選手にはありません。むしろ、VBTのアプリでレストインターバルを設定すれば、選手はそれをきちんと守らなければならない状況を作り出すことも可能です。

 

8.VBTで使われる機器は壊れやすくウェイトルームにはなじまない

 

これには笑ってしまいますが、VBTのデバイスはどれもウェイトルームで使用することを大前提として作られているので非常に頑丈です。また、各種の機器やエクササイズで効率よく使用するための様々な工夫がなされています。

強力な磁石で直接バーベルに装着したり、地上に置いたプレートにしっかりと固定できるようになっていますもちろん値段の高い機器はそれだけボディーも頑丈に作られ内部の電子パーツの保護性能が高くなっています。


今私が指導している選手たちは、他のどこの大学のウェイトルームにいる選手よりも重いウェイトをより高速で挙上していることは間違いありません。アメリカ国内のベストウェイトリフターの集団です。Ryan Grimslandは体重73㎏ですが、クリーン&ジャークで190㎏を挙げ、頭上からフロアーに落下させています。19歳のTank Lunsfordのスクワットは320㎏です。頭上から180㎏を超えるバーベルを落下させている選手は何人もいます。

そんな状況ですが、簡単に外れたり壊れたりすることはありません。

 

 

 

終わりに

これでVBTにまつわるいくつかの誤解は解けたのではないかと思います。

誰よりも良い選手、今まで以上に良い選手を育てたいと思うなら、これまでの思い込みや不安を一旦脇に置いて、VBTを導入することをお勧めします。トレーニングをより効果的で楽しいものにでき、データのトラッキングから有益な情報がたくさん得られます。

単に選手の進歩の度合いが客観的にわかるだけではなく、あなた自身が作成したプログラムやそれによる指導それ自体のの真の姿を映し出してくれます。

私が大学のコーチとして仕事を始めたときにすぐに学んだことの1つをお伝えして、このブログを閉じたいと思います。

「一日の仕事を終えたとき、指導者がハッピーでなければ、誰もハッピーではない」

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