肉離れをスポーツ科学の視点から考える

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スポーツ科学の視点から考えるハムストリング肉離れの予防

2019/11/13

 

肉離れを防ぐためのトレーニング方法

スポーツ科学の視点から考えるハムストリング肉離れの予防

これからオフシーズンになる様々なスポーツ競技では、シーズン中に蓄積された疲労に加え、寒さも相まってアップ不足や無理な力発揮により肉離れが起こる可能性が高まります。中でもサッカーとラグビーで発生する全外傷の約15%を占めるとされるハムストリングの肉離れは、選手個人とクラブにとって大きな損失をもたらすため、その予防は極めて重要です。ハムストリングの肉離れは、スプリントの遊脚後期から立脚初期、ボールキック時等の高レベルのエクセントリック筋活動時に主として大腿二頭筋に発生します。発生原因としては、加齢、受傷暦、柔軟性の欠如、疲労の蓄積、ウォームアップ不足等が指摘されていますが、とりわけエクセントリック筋力とその左右差は、発生リスクに大きく影響するとともに、トレーニングよって改善可能な要因であることが最近の研究によって明らかにされています(Opar et al., Hamstring Strain Injuries, Sports Med. 2012)。

発生リスクに対する年齢と筋力の関係

下のグラフは、ハムストリングのためのエクセントリック筋力評価システム ”Nordbord” を用いて、500名を超えるサッカーやラグビーの選手を対象として実施された研究結果(Timmins et al: 2015, Opar et al: 2015, Bourne et al.: 2015) をまとめたものです。

これを見ると各年齢におけるハムストリングの筋力とケガの発生リスクの傾向が見えてきます。縦軸が発生リスクで、1.0が発生可能性100%を意味します。横軸がNordbordによって計測されたプレシーズン終了時点すなわちシーズン開始直前のハムストリングのエクセントリック筋力です。

年齢別の曲線から、筋力が高ければ高いほど(グラフの右端に行けば行くほど)、肉離れのリスクが低下し、逆にある一定の筋力水準に満たない場合、急激に肉離れのリスクが高まることがわかります。ちなみに種目ごとのラインはその種目の平均値を示します。
また、年齢が高くても、筋力を高めることで肉離れのリスクを低く抑えることが可能なことがわかります。
これらの指標と測定したハムストリングの筋力を比較することで肉離れのリスクを大幅に減少させることができます。
 



受傷暦のある選手は特に筋力向上が重要

下のグラフから、ハムストリングの受傷暦のある選手はない選手に比べて2倍以上のリスクを持っていますが、筋力レベルを高くしておくことで、発生リスクそのものを低く抑えておくことが可能であることがわかります。


 




ハムストリングの肉離れ予防に効果的なエクササイズとは?
これらのデータから、ハムストリングの肉離れを防ぐためにはハムストリングのエクセントリック筋力を高めることが必要不可欠であることが明らかです。ハムストリングを鍛えるためのトレーニングとしては「ノルディックハムストリングカール」が有名です。膝立ちの状態でパートナーに足首を固定してもらうか器具で固定し、股関節を曲げないよう、膝を支点に膝関節を伸展させながらゆっくりと前に倒れていきます。他の筋肉による代償動作を極力抑えることができるため、ハムストリングに特化したエクセントリックトレーニングを行うことが可能ですが、このエクササイズをしたことがない人にとってはかなり負荷の高いトレーニングになるため、無理をせず様子を見ながら、徐々に量を増やし、最終的には5~10回の反復を2~3セット、週2~3回行います。

 


これから、オフシーズンに入る競技種目では必然とトレーニング強度が低下しスプリント動作や急激な切り返し動作を行うことが少なくなるため、急な力発揮により肉離れを発症するリスクが高まります。また、トレーニングの強度と量が急増するオフシーズンからインシーズンに入る際に多くの肉離れが発症することもあります。そのため、トレーニング強度が低いオフシーズン時こそ、ノルディックハムストリングカールなどのトレーニングにより、筋力を維持、向上させる必要があるのです。

 

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齋藤朋弥
エスアンドシー株式会社 営業・企画
JATI-ATI、スポーツパフォーマンス分析スペシャリスト、NSCA-CSCS
龍谷大学スキー部トレーニングコーチ

 

長谷川裕
龍谷大学スポーツサイエンスコース教授
スポーツパフォーマンス分析協会会長
日本トレーニング指導者協会名誉会長
エスアンドシー株式会社代表

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