ラグビー選手の最大筋力を向上させるためのVelocity Based Training Part.1

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最大筋力を向上させるためのVelocity Based Training Part.1

2020/08/07

トム・ターナー(イングランド1部、グロスターラグビー、シニアストレングス&コンディショニングコーチ)
 
齋藤朋弥・長谷川裕 訳


ストレングス&コンディショニング業界におけるVBT(Velocity Based Training)メソッドへの関心は近年爆発的に高まっています。 GymAware、 FitroDyne、Bar Sensei、PUSH Bandといった、研究室ではなくジム内で動作速度を測定するデバイスが普及してきたことに起因しているのは間違いありませんが、もう一つの理由として、Bryan Mann、Eamonn Flanagan、Mladen Jovanovicといった著名な指導者がVBTについてのトピックを普及させ、多くの注目を集めたことがあります。
この記事では、すでに他のところで書かれていることを繰り返すのではなく、ハイレベルなアスリートを対象とした実践的な具体例を通じて、トレーニングプログラムに挙上速度をいかに応用できるかを示したいと思います。 特に、まだ十分に活用されていない最大筋力トレーニングの領域におけるVBTの可能性に焦点を当てて紹介します。
トップレベルのパフォーマンスを発揮している大人数のラグビーチームで、私が3年間試行錯誤してきた結果や、実践して効果があった方法、そしてそれを裏付けるデータをご紹介します。 そのためには、理論的な背景を再確認する必要がありますが、より詳細な背景を知りたい方は上述したコーチのトピックや研究情報を参照することをお勧めします。

Velocity Based Trainingの基本と要点

1.負荷と速度の関係

ウエイトトレーニングにおいて、可能な限り速く挙上するという条件で挙上重量を増加させると、挙上速度は直線的に減少していきます。 この負荷‐速度の関係はVBTの基本的な原理の一つです。スクワットやベンチプレスなどの筋力トレーニングにおいて、重量と平均速度の関係が非常に安定しているということは多くの研究者によって証明されています(1, 4, 7)。 この関係は筋力レベル、また筋力の増減変化に関係なく当てはまります。 ここで引用した研究は、すべてレクリエーション・アスリートを対象としており、ベンチプレスの平均値が最も高いもので88kgであると報告されています。 しかし、私たちのエリートグループ(平均1RM 140±16kg、高い選手は170~180kgの間で挙上可能)におけるベンチプレス1RMから得られたテストデータも、これらの研究結果を支持しています。対象とした68人の選手において、重量(%1RM)と速度(平均速度)の間に、相関係数 r=-0.97というほぼ完全な相関が確認できました(図1)。 このように、負荷と速度の関係の強さは、筋力レベルやトレーニング経験に関係なく安定しているということは、最大筋力を向上させるためのVBTを行う際の中心的な理論となるといえます。
 
 
(図1) 68名のラグビー選手における%1RM負荷と平均挙上速度の関係

2.最小速度閾値( The Minimum Velocity Threshold ) 

ウエイトトレーニングにおいて、セット毎に挙上重量を少しずつ増加させながら何回も反復すると、ある時点でそれ以上挙上できなくなります。同様に、負荷を一定にしたセット内のレップを重ねていくと、やはりある時点でそれ以上挙上できなくなります。 力学的に言うと、重力に打ち勝つのに必要な最低限度の速度を発揮できなくなるのです。したがって、”つぶれる”1つ前のレップ、言い換えれば最後の1レップの速度は、挙上を成功させるための最小速度であり、これ以下の速度では挙上できなくなります。これがVBTに関するもう一つの基本原理です。
 

最小速度閾値(MVT)と呼ばれるこの値は、強度レベルに関係なく安定しており、実行されたレップ数に関係なく当てはまります。 Izquierdoら(6)は、ベンチプレスとスクワットの両方で1RMに対する75%、70%、65%、60%の重量においてつぶれるひとつ前の平均速度の間に有意な差がないことを報告しています。 下の例(図2)では、1RMのベンチプレステストで徐々に負荷を増加させていった時も、または80%1RMを用いてレップ数を重ねた時も、最終的に同じMVTに達することがわかります。 このアスリートの場合、MVTは0.19 m/s であることを示しています。

 

 

(図2)・ベンチプレスにおいて実測で1RMを測定した際の負荷と挙上速度の関係・80%1RMでつぶれるまで反復を行った際の速度とMVTを表したグラフ


ここで注意すべき重要な点は、MVTはエクササイズによって異なることです(14)。ベンチプレスのMVTは約0.15 m/s であるという文献上の実例があります。 私たちの選手(68人分の試行)では、ベンチプレス1RMでのMVTはこうした研究結果と一致しており、平均は0.15±0.03 m/s  でした。 スクワットは約 0.27~0.30 m/s (2, 6) と報告されていますが、一般的にボックススクワットを行い、1RMに近い重量を挙上せず、つぶれるまで反復をしない私たちのチームでは、12名という少ないデータですが、ボックススクワットの MVTが 0.25 ± 0.03 m/s であることがわかりました。

主要種目の速度特性に関するこの知識は、速度を使用することによって、最大下の負荷だけで1RMを予測したり、選手がどれだけ故障しやすい状態にあるかを理解したりするために不可欠です。

これら2つの基本原則、「負荷と速度の関係」と「主要エクササイズのMVT」は、ウエイトトレーニングにおけるVBTを実施するための中核をなすと言えます。 次の項ではこれらの基本原則に基づいて、大人数のプロラグビー選手を対象に、GymAwareを用いて行った以下の5つのVBT戦略を紹介します。

1.努力度の測定と漸進的な過負荷の管理
2.最大下負荷を用いて1RMを推定する
3.筋力プロファイリング
4.疲労と努力レベルのコントロール
5.筋力特性の変化をモニタリング
 

最大筋力向上を目的としたVBT

1.努力度の測定と漸進的な過負荷の管理
今回採用した戦略の中で、最も簡単で最もうまくいったとはっきり言えることは、選手にとってそのセットがどれだけの負担となっているのか、を把握できたことです。 ベンチプレスを例にすると、ある選手が5レップの高重量セットを行った場合、それらのレップの平均速度がMVT(0.15 m/s )に近ければ近いほど、そのセットはきつかったことがわかります。 プレシーズンには、週ごとに負荷を増加させることを目標にしていますが、選手がその週のトレーニングの刺激に適応し、次の週から重量を増やし、さらに筋力を向上させていくためには、オーバートレーニングを回避し、適切に回復させられるかどうかが鍵を握っています。 設定された重量が重すぎたり、過大な疲労を伴うものであれば、筋力改善は停滞する可能性があります。 そのために、すべての重量に最低速度を設定することによって、重量負荷が過剰になりすぎるのを防ぎながら週ごとに重量を漸増させることができます。 
今回はボックススクワットでは0.35 m/s 、ベンチプレスでは0.25m/sのMVTを設定しました(いずれもMVTから0.10 m/s の差)。これらの閾値は、確固たる証拠に基づくものではありませんが、選手が少なくとも1回、おそらくそれ以上のレップ数をこなせる「余裕がある」という理にかなった仮定に基づいています(各エクササイズのMVTに基づいて)。 
Bryan Mann (10)も、これと同様に、各エクササイズで平均速度が0.3 m/s を下回らないようにという推奨をしています。 選手がセット内で決められたレップ数を反復するのに規定の最小速度以上に速度を保つことができなかった場合は、次のセッションで負荷を増量せず、同じ負荷を用いるようにさせました。これにより、選手がつぶれるまで反復することはほとんどありませんでした。 この間の全選手のデータを見ると、例えば、スクワットの最終セット(最も重いセット)約460セット中、MVTで挙上されたのは僅か54回で、そのうち挙上に失敗したのは6セットだけでした。

最大負荷を挙上することはほとんどありませんでしたが、下肢の筋力はプレシーズン中に17.5%増加し、1年前のプレシーズン終了時の筋力レベルから7.4%向上しました。 上肢の筋力はプレシーズン中に7%増加し、1年前の同時期から4.7%改善しました。 トレーニングブロックのほとんどの期間、最大負荷レベルでの挙上を行っていませんでしたが、VBTを用いなかった同様のトレーニングブロックと比較して、同等の筋力向上が見られました。 このような結果になった要因として、意識に関連することが考えられます。 アスリートに速度やパワーのフィードバックを与えると、出力が増加することはよく知られています(1,9)。 ビルドアップを含むすべてのセッションで意識レベルが改善され、アスリートがより高い筋力(F=MA、より高い加速)を生み出すことで、全体の挙上の質が向上すると考えています。
 
2.最大下負荷を用いて1RMを推定する
VBTについて最も広く知られているメリットの1つは、最大下の負荷から1RMを推定できることでしょう。 重量と速度の関係が強いということは、ある程度の精度で一方の変数を用いて、もう一方の変数を推定できることを意味します(最大スピードで全力挙上し、エクササイズのMVTがわかっていることが前提)。 これは最大負荷のリスクにさらされることなく、アスリートの最大挙上重量を測定するための貴重な方法です。特に、この方法は、若い選手や経験の浅い選手、VBTに慣れていない選手、あるいは怪我から復帰した選手に有効であることがわかりました。ただし、この方法を利用するには、個々の選手の負荷-速度プロフィールを確立する必要があります。どのようにしてデータを収集し、実践に活用するかについての有効なガイドは、Jovanovic and Flanagan (8)によって提供されています。 下記のすべての実践例は、その重要なデータに基づいています。 下の図(図3)は、大胸筋損傷から復帰した選手のベンチプレスにおける負荷-速度プロフィールと1RMの推定値の例です。 トレーニングブロック後の筋力レベルを予測することは、1RMを直接テストするよりも安全な方法です。 JovanovicとFlanagan(8)は、1RMを計算する方法と、このデータの信頼性を考慮した方法を詳細に説明しています。 簡単にするために、1RMの推定のみを以下に示します。
 


(図3)推定1RMを算出するための計算式

重量-速度の関係を使用することによって正確な1RMが推定でき、その値は、アスリートの実測値と極めて密接に対応しています。 Jidovtseffら(7)は、負荷-速度の関係を用いた予測は、つぶれるまで行って1RMを実測する方法と同じくらい正確であるという仮説を展開しています。 しかし、Bosquetら(1)は 、スミスマシンでのベンチプレスの平均値が62kgの男女の体育学生を対象した研究で、推定1RM値と実測の1RM値の間には非常に高い相関関係があるもの、絶対値そのものは大きく異なったことを強調しています。 今回対象とした68名のプロラグビー選手の例では、最大下の負荷を用いたの負荷-速度プロフィールから推定された1RM値と、同日に測定された実際の1RM値との間の相関係数は0.98でしたが、推定値と実測値の平均の差は3.5kg(標準偏差±2.9kg)でした。 このような高度なトレーニングを行っているエリート選手では、常に高強度のトレーニングを頻繁に行っているため、負荷重量と速度の関係から1RMを推定する方が信頼性が高く、より正確な予測が可能になると考えられます。 しかしながら、負荷-速度の関係から予測された1RM値を実測の1RM値と混同しないことを推奨します。

 

翻訳

S&C株式会社 齋藤朋弥・長谷川裕

 

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参考文献

  1. Bosquet, L, Porta-Benache, J and Blais, J. Validity of a commercial linear encoder to estimate bench press 1RM from the force-velocity relationship. J Sports Sci and Med 9, 459-463, 2010.
  2. Conceicao, F, Fernades, J, Lewis, M, Gonzalez-Badillo, JJ and Jimenez=Reyes, P. Movement velocity as a measure of exercise intensity in three lower limb exercises. J Sports Sci [Epub ahead of print], 2015.
  3. Folland, JP, Irish, CS, Roberts, JC, Tarr, JE and Jones, DA. Fatigue is not a necessary stimulus for strength gains during resistance training. Br J Sports Med 36: 370-74, 2002.
  4. Gonzalez-Badillo, JJ and Sanchez-Medina, L. Movement velocity as a measure of loading intensity in resistance training. Int J Sports Med 31:347-52, 2010.
  5. Gonzalez-Badillo, JJ, Marques MC and Sanchez-Medina, L (2011). The importance of movement velocity as a measure to control resistance training intensity. Journal of Human Kinetics, Special Issue 2011, 15-19.
  6. Izquierdo, M, Gonzalez-Badillo, JJ, Hakkinen, K, Ibanez, J, Kraemer, WJ, Altadill, A, Eslava, J and Gorostiaga, EM. Effect of loading on unintentional lifting velocity declines during single sets of repetitions to failure during upper and lower extremity muscle actions. Int J Sports Med 27, 718-724, 2006.
  7. Jidovtseff, B, Harris, NK, Crielaard, JM and Cronin, JB. Using the load-velocity relationship for 1RM prediction. J Strength Cond Res 25(1), 267-270, 2011.
  8. Jovanovic, M and Flanagan, EP. Researched applications of velocity based strength training. J Aust Strength Cond 22: 59-69, 2014.
  9. Keller, M, Lauber, B, Gehring, D, Leukel, C and Taube, W. Jump performance and augmented feedback: Immediate benefits and long-term training effects. Human Movement Sci 36, 177-189, 2014.
  10. Mann, B. Developing Explosive Athletes: Use of Velocity Based Training in Training Athletes.  Michigan: Ultimate Athlete Concepts, 2016.
  11. Padulo, J, Mignogna, P, Mignardi, S, Tonni, F and D’Ottavio, S. Effect of different pushing speeds on bench press. Int J Sports Med 33: 376-80, 2012.
  12. Randell, AD, Cronin, JB, Keogh, JW, Gill ND and Pedersen, MC. Effect of instantaneous performance feedback during 6 weeks of velocity-based resistance training on sport-specific performance tests. J Strength Cond Res 25: 87-93, 2011.
  13. Sanchez-Medina, L and Gonzalez-Badillo, JJ. Velocity loss as an indicator of neuromuscular fatigue during resistance training. Med Sci Sports Exerc 43:1725-34, 2011.
  14. Sanchez-Medina, L, Gonzalez-Badillo, JJ, Perez, CE and Pallares, JG. Velocity-and power-load relationships of the bench pull vs. bench press exercises. Int J Sports Med 35: 209-16, 2015.

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