最大筋力を向上させるためのVelocity Based Training Part.2

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ラグビー選手の最大筋力を向上させるためのVelocity Based Training Part.2

2020/08/15

トム・ターナー(イングランド1部、グロスターラグビー、シニアストレングス&コンディショニングコーチ)
 
齋藤朋弥・長谷川裕 訳

 

3.筋力プロフィール
負荷-速度プロフィールによって、アスリートの個人的特徴や、長所と短所を明らかにすることもできます。 負荷‐速度曲線に沿って選手の筋力発揮特性を詳しく見ることで、1RMテストだけではわからない、その選手にとって必要なトレーニングすべき領域を明確にできます。 これを実証するために、異なる特徴を持つ2人のフォワード選手のベンチプレスにおける負荷‐速度プロフィールを比較したグラフを図4に示します。 Player 1は、明らかに最大よりも軽い負荷でより高速で挙上していることがわかります。このことは、トレーニングプログラムや競技パフォーマンスへの転移という点で重要な意味を持つと考えられます(図4)。
 

(図4) 負荷‐速度プロフィール 2選手間の比較

 

負荷と速度から表される回帰直線の傾きは、回帰式 y=mx+cにおけるmの値として表され、それをグループの基準値と比較することで、その選手の筋力特性についての情報を得ることが可能です。 線の傾きは、その「傾斜の緩急」を表します。 負荷‐速度プロフィールの傾きが急だということは、負荷が増加することによって、速度に大きな影響を与えることを意味します。逆に、傾きが緩やかな 負荷‐速度プロフィールは、負荷の増加が速度に与える影響が小さいことを意味します。

私たちは、ベンチプレスの負荷-速度プロフィールの傾斜に基づいて、全てのグループをランク付けし、主要なプッシュ系エクササイズをこれに合わせて調整しました。 その結果、傾きが緩慢で、軽い負荷において動作速度が遅い選手は、よりダイナミックなスピードー筋力法によるトレーニングを行いました(この場合、最大パワーを得るためのバンドを使用した軽負荷のベンチプレスを実施)。逆に負荷-速度プロフィールに急な傾斜があり、比較的軽い負荷において爆発的な能力を持つ選手には、高重量の絶対筋力向上を目的としたトレーニングを行いました(高重量でコンセントリック局面のみのベンチプレスなど)。なぜこれが当てはまるのかについては多くの研究が必要ですが、アスリートの負荷-速度プロフィールから論理的に考えると、このようなトレーニング介入が可能となります。

 

4.疲労と努力レベルのコントロール

つぶれるまで反復する(最後まで最大努力を発揮して頑張る)トレーニングは必ずしも筋力を向上させるために必要ではないことが明らかにされており、実際には逆効果になる可能性もあります。過度の疲労は、大きな筋力の発揮に対して機能的および代謝機能に対しても多大な影響を与え、筋力向上、RFD 、パワー出力の大きな減少につながります(5、13)。

この疲労を軽減する 1 つの方法として、トレーニング効果を高める上で意味のない不必要な反復を排除するために、 速度低下の閾値を設定することが有効です。何人かの研究者たちは、挙上速度が、1レップ目(通常は最速になる)に対して一定の割合低下したら、セットを終了することを推奨しています。例えば、  スクワットでは30%、ベンチプレスでは35%低下したら、それ以上挙上せずセットを終了させるというようにです。 挙上速度が最大の何%低下したかという表示が多くのデバイスで可能となっているため、この方法はうまく機能すると言えます。ただし、この方法が成功するかどうかは、アスリートが1レップ目から、そしてすべてのレップで最大限の全力挙上を行えるか否かにかかっています。


同様の考え方に基づき、挙上速度が事前に設定した速度以下に低下したらセットを終了する、という方式も採用しました。負荷‐速度プロフィールから算出されるこの速度は、 速度停止閾値と呼ばれており、最大努力で反復して行き、この速度閾値にまで低下すると、それ以上その速度では反復することはほどんど不可能となります。したがって、トレーニングの目的によっては、対象となるエクササイズのMVTを念頭に置きつつ、この数値を低く設定する必要があります。 Jovanovic と Flanagan (8) は、努力/速度表から速度停止閾値を導き出すことを提案していますが、私たちはシンプルに目標スピードの80%を 速度停止閾値 として使用して、良い結果を得ています。例えば、ベンチプレスにおいて75%1RMの負荷を挙上する場合、標準的な負荷-速度プロフィールから予想される挙上速度はほぼ0.7 m/sとなります。したがって、速度停止閾値 は、その80%ですから、0.56 m/sと設定されます。 選手は速度が0.56 m/s以下になるまで、できるだけ多くの反復をすることになります。この方法は上述した一定のパーセンテージ低下したらセットを終えるという方法よりも実用的で、絶対的な最大努力に達していないレップも考慮することができますが、速度の%低下閾値の計算がずれてしまい、セットが早く終了してしまう可能性があります。


当初、このアプローチで使用した速度停止閾値は、グループ内すべての選手の負荷-速度プロフィールの平均値から算出していましたが、それは問題だとわかりました。 グループの平均値から計算することで、外れ値を出す一部の選手に対しては、グループ内のその他大勢の選手とは全く異なるトレーニング刺激を経験させることになってしまったのです。 極端なケースでは、ある選手がグループの 速度停止閾値以下でさらに7~8レップを行うこともあり得ますし、逆に、ある選手はグループ内で設定された速度停止閾値以上の速度でもそれ以上挙上できなくなるということが生じました。 このトレーニング方法を最適化するためには、選手の負荷-速度プロフィールに合わせた固有の速度停止閾値を選手ごとに設定する必要があるのです。

下の例(図5)はある若いバックスの選手のもので、負荷-速度プロフィールからこの選手の速度停止閾値 がどのように計算されるかを示しています。図に示した計算を経て、最終的に、選手が持ち上げる負荷とそれに対応する 速度停止閾値 が算出されており、その値を下回るとセットを終了します。この値はベンチプレスの MVT (0.15 m/s)からも十分に離れています。 各選手がこのプロトコルにどのように適応するかは、他のトレーニングと同様に常に予測可能というわけではなく、一様なものでもありません。この原因は個人の筋線維タイプや、負荷‐速度プロフィール特性、神経筋機能の日々の変動によるものと考えられます。

 

 


(図5)負荷‐速度プロフィールと速度停止閾値の設定



上記の、速度停止閾値を用いて挙上速度がそれ以下になればセットを終了するというVBTは、選手の筋力発揮の変動に敏感に反応します。 そのため、トレーニングや試合におけるコンタクトによって選手のパフォーマンスが影響を受けやすい試合期に活用するのが最適です。 速度停止閾値によるセットの終了というコンセプトを使用すると、選手が疲労していないセッションでは、自然とより多くのレップ数が実行されるようになり、 逆に疲労度が高い場合は、レップ数が減ります。

重要なことは、身体的なコンディションがどんな状態であっても、つぶれるまであとどれくらいもつか、という特性は安定しているということです。 このように速度を測定することにより、単に選手の感覚だけに頼ることなく、ほぼ自己調整の形でトレーニングを進めていくことができるのです



この方法では、従来のトレーニング方法よりもトレーニング量が少ないにもかかわらず、筋力の向上率はかなり高くなり、つぶれるまで追い込むトレーニングに比べるとはるかに高くなる可能性があります。任意の挙上速度で行うトレーニングと比較して、全力で挙上することの利点は、Paduloらによるトレーニング研究(11)で検討されています。 経験豊富なリフターを2つのグループに分け、週に2回、ベンチプレスを85%1RM負荷でトレーニングを行いました。1つ目のグループは、全てのレップで全力で挙上し、セット内の最高挙上速度に対して挙上速度が20%低下するまで反復し、それ以上低下したらセットを終了しました。 2つ目のグループは、すべてのセットで任意の挙上速度で挙上し、つぶれるまで強制的に反復を続けさせました。 セット間の休息はグループ間で同じでした。

3週間後、速度停止閾値を設定したグループでは、筋電図で示される筋活動が、任意の挙上速度で行ったグループよりも、0.17% 大きくなり、1RM値が10.2%増加しました。速度停止閾値を設定したグループでは、 任意の挙上速度で行ったグループに対し、トレーニング量は約3分の2だったことがわかりました。 グループ間の違いは挙上速度のみだったことから、トレーニングに対する神経筋の反応を決定する上で、動作速度が重要であることが浮き彫りになりました。 つまり、VBTを実行している時は、最大速度で挙上することにより、最大反復数に達するまで挙上していないにもかかわらず、おそらくそれと同じくらい多くの筋線維が動員されているのです。その結果、神経筋系がより活性化されることが、VBTの有効性を支える重要な理由の一つであることは間違いありません。速度測定機器を使用できない場合は、最大速度での動作を行うことを意識し、努力のレベルに応じた適切な負荷の選択をすることで、同様の改善を期待できます。

 

5.筋力特性の変化をモニタリング
負荷-速度プロフィールと1RMの推定によってもたらされる利点で、従来のウエイトトレーニングでは得られたなった点は、アスリートにとって実用的なモニタリングが繰り返しできるという点にあります。図6は、先に紹介した選手のベンチプレスにおける負荷-速度プロフィールがどのように変化するかを、速度停止閾値を使用したトレーニングの前(Test1 )と後(Test 2)で比較しています。挙上速度の増加が筋力の向上につながることがよくわかります。 Gonzalez-BadilloとSanchez-Medina (4)は、ある負荷または負荷の全体に対する挙上速度が0.07 - 0.09 m/sの増加すると、1RM値が5%増大すると報告しています。図6に示したデータは、4つの負荷で 平均速度が0.15 m/s増加したことにより、1RM 値が 7.7%向上したことを示しています。 あるチームスタッフのプロフィールでは、4つの負荷で平均速度が0.11m/s増加し、1RM強度が6.9%増加しました。 主要なエクササイズ種目の挙上速度をモニタリングすることで、時間の経過とともに変化する筋力レベルを目に見える形で追跡することができるのです。 このことは、私たちがトレーニング刺激の有効性を把握するための暗黙の方法となっています。

(図6)負荷‐速度プロフィール



結論
ここで紹介した情報は、プロラグビー選手に有用なVBTの実用的な使用法の一部に過ぎません。この分野、特にエリートレベルのアスリートを対象とした研究がさらに必要であることは間違いありませんが、多くの場合必ずしもそれは実現可能ではありません。 しかし、これまでに発表された科学的なエビデンスは非常に魅力的であり、それらを実際に使用することで、トレーニング介入に具体的な効果をもたらしています。注意点として、VBTは必要とされるコーチングスキルや個々の選手、挙上の特徴などを「感じる」ことを犠牲にして、テクノロジーに固執することではありません。むしろ、すでに効果的に採用されている既存のトレーニング方法をさらに高めるために採用すべきです。Paduloら(11)は、VBTは経験豊富なリフターに適しており、従来のVBTを使用しないトレーニング方法は、エクササイズテクニックに慣れさせ、筋腱の適応力を向上させるための手段として、初心者のアスリートに適しているとしています。 トレーニング強度について新たな次元を生み出す速度に基づいたトレーニング法であっても、それを適用することで、特定の個人やある特定の時期には適さない効果を生むことも覚えておくことが重要です。 しかし、大多数に対しては、VBTの利点は懸念される欠点をはるかに上回っており、ウエイトトレーニングがトレーニングプログラムの1つの重要な要素であるラグビーにおいて、ウエイトトレーニング刺激による疲労効果を最小限に抑え、パフォーマンスを最大化できる利点を得られることは間違いありません。  

 

翻訳

S&C株式会社 齋藤朋弥・長谷川裕

 

齋藤朋弥
エスアンドシー株式会社 営業・企画
日本トレーニング指導者協会 JATI-ATI

スポーツパフォーマンス分析スペシャリスト

NSCA-CSCS

龍谷大学スキー部トレーニングコーチ

 

長谷川裕
龍谷大学スポーツサイエンスコース教授
スポーツパフォーマンス分析協会会長
日本トレーニング指導者協会名誉会長
エスアンドシー株式会社代表

 

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参考文献

  1. Bosquet, L, Porta-Benache, J and Blais, J. Validity of a commercial linear encoder to estimate bench press 1RM from the force-velocity relationship. J Sports Sci and Med 9, 459-463, 2010.
  2. Conceicao, F, Fernades, J, Lewis, M, Gonzalez-Badillo, JJ and Jimenez=Reyes, P. Movement velocity as a measure of exercise intensity in three lower limb exercises. J Sports Sci [Epub ahead of print], 2015.
  3. Folland, JP, Irish, CS, Roberts, JC, Tarr, JE and Jones, DA. Fatigue is not a necessary stimulus for strength gains during resistance training. Br J Sports Med 36: 370-74, 2002.
  4. Gonzalez-Badillo, JJ and Sanchez-Medina, L. Movement velocity as a measure of loading intensity in resistance training. Int J Sports Med 31:347-52, 2010.
  5. Gonzalez-Badillo, JJ, Marques MC and Sanchez-Medina, L (2011). The importance of movement velocity as a measure to control resistance training intensity. Journal of Human Kinetics, Special Issue 2011, 15-19.
  6. Izquierdo, M, Gonzalez-Badillo, JJ, Hakkinen, K, Ibanez, J, Kraemer, WJ, Altadill, A, Eslava, J and Gorostiaga, EM. Effect of loading on unintentional lifting velocity declines during single sets of repetitions to failure during upper and lower extremity muscle actions. Int J Sports Med 27, 718-724, 2006.
  7. Jidovtseff, B, Harris, NK, Crielaard, JM and Cronin, JB. Using the load-velocity relationship for 1RM prediction. J Strength Cond Res 25(1), 267-270, 2011.
  8. Jovanovic, M and Flanagan, EP. Researched applications of velocity based strength training. J Aust Strength Cond 22: 59-69, 2014.
  9. Keller, M, Lauber, B, Gehring, D, Leukel, C and Taube, W. Jump performance and augmented feedback: Immediate benefits and long-term training effects. Human Movement Sci 36, 177-189, 2014.
  10. Mann, B. Developing Explosive Athletes: Use of Velocity Based Training in Training Athletes.  Michigan: Ultimate Athlete Concepts, 2016.
  11. Padulo, J, Mignogna, P, Mignardi, S, Tonni, F and D’Ottavio, S. Effect of different pushing speeds on bench press. Int J Sports Med 33: 376-80, 2012.
  12. Randell, AD, Cronin, JB, Keogh, JW, Gill ND and Pedersen, MC. Effect of instantaneous performance feedback during 6 weeks of velocity-based resistance training on sport-specific performance tests. J Strength Cond Res 25: 87-93, 2011.
  13. Sanchez-Medina, L and Gonzalez-Badillo, JJ. Velocity loss as an indicator of neuromuscular fatigue during resistance training. Med Sci Sports Exerc 43:1725-34, 2011.
  14. Sanchez-Medina, L, Gonzalez-Badillo, JJ, Perez, CE and Pallares, JG. Velocity-and power-load relationships of the bench pull vs. bench press exercises. Int J Sports Med 35: 209-16, 2015.

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