トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価 #15挙上速度の測定が不可欠な理由(1)

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トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価 #15挙上速度の測定が不可欠な理由(1)

2024/08/22

挙上速度の測定が不可欠な理由(1)

スポーツパフォーマンス向上のためのウェイトトレーニング

記事はJATI EXPRESS No.98に掲載のものです。

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【概要】

・スポーツパフォーマンスで重要なのは大きな速度変化を得ること

・力とは何か?すべてはニュートンから始まる

・動作中に作用する全体の力=力積

・運動の勢いを表す指標=運動量

・物体の速度を大きく変化させるために必要なのは大きな力積である

・力積を大きくする3つの方法

・ウェイトトレーニングにおける力積と速度の関係

・ウェイトトレーニングにおいて挙上速度を測ることは力を測ることである

・挙上速度がわかれば1レップごとの発揮筋力の大きさを知ることができる

スポーツパフォーマンス向上のための ウェイトトレーニング指導に挙上速度の測定が不可欠な理由(1) 筆者は、これまでパフォーマンス向上を目的としたウェイトトレーニングにおける挙上速度の意義と必要性について、 ことあるたびに発信してきた。その1つの到達点が『VBT トレーニングの効果は「速度」が決める』だ。 一方で、ウェイトトレーニングにおける挙上速度計測について、もう1つピンとこないというトレーニング指導者もいるようである。 そこで今回は、これまでとはやや異なる論理展開によって、 スポーツパフォーマンス向上のためのウェイトトレーニング指導にはなぜ挙上速度の測定が不可欠なのかを解説したい。

 

はじめに
私はこれまで約20年間以上にわたって、パフォーマンス向上を目的としたウェイトトレーニングにおける挙上速度の意義と必要性について、ことあるたびに論文や学会発表やセミナーを通して発信してきました。ウェイトトレーニングにおいて挙上速度を測定する意義や必要性については、バイオメカニクスや生理学や心理学等の研究に基づいたさまざまな角度と切り口からそれぞれ異なる論理で説明することができ、さまざまな競技レベルの多くの実践によってその効果を実証することができます。
 それらをまとめた1つの到達点といえるものが拙著『VBT トレーニングの効果は「速度」が決める』(草思社,2021)ですが、ウェイトトレーニングにおける挙上速度計測について、まだもう1つピンとこないというトレーニング指導者もおられるようです。そして、筋力とはなにか、速度がそれとどのような関係にあるのかについて、まだ誤解や混乱があるように思われます。
 そこで、これまでとはやや異なる論理展開によって、スポーツパフォーマンス向上のためのウェイトトレーニング指導にはなぜ挙上速度の測定が不可欠なのかを解説したいと思います。今回はその1回目です。

 

スポーツパフォーマンスで重要なのは大きな速度変化を得ること
 より優れたスポーツパフォーマンスを獲得するために、なぜ筋力を向上させるためのトレーニングが必要なのでしょうか? これを理解するにためにはまず、スポーツパフォーマンスを向上させるとは何を意味するのかを厳密に考える必要があります。パフォーマンス向上とはなにか? それはずばり運動速度の向上にあります。つまり、アスリート自身の運動速度と方向、あるいは外的な対象物の運動速度と方向もしくはその両方を変 化させることです。優れたパフォーマンスというものはほとんどこの速度によって決まります。
 例えば、いかに高く跳べるか、つまり身体重心をいかに上方に投射できるかは、踏切時の上昇速度によって完全に決まります。投擲物の投擲距離は、投射角度と高さ条件が同じならリリースされる瞬間の速度によって決定されます。すばやい向転換には、大きな速度変化、つまり減速と新たな方向への大きな加速が必要となります。スプリントスピードは、ストライド×ピッチで決まりますが、ストライドの大きさは離地の瞬間の水平速度で決まります。バッティングの飛距離やテニスのサーブの威力も、ボールにバットやラケットが当たる瞬間の速度によってほぼ決まります。
 その他、ほとんどすべてと言っていいスポーツのパフォーマンスにとって重要となるのは速度の変化です。大きな速度に到達すること、相手と競り合うスポーツではより短時間で大きな速度に到達すること、これが多くのパフォーマンスに対して求められるのです。
 というと、ウェイトリフティングやパワーリフティングでは、速度ではなくより重い重量を挙上する力が必要なのではないか、相手と直接組み合うスポーツでは力そのものが最も重要なのではないか、と考える人がおられるかもしれませんが、前者では、最大挙上重量より軽い負荷に対してはより高速で挙上できることが最大挙上重量を増加させるために必要であり、後者においては、相手が自分の身体部位を動かそうとしている速度を減速させることや逆に自分の意図する方向に対して少しでもより大きな速度を発揮することがその目的となります。
 では、この速度の変化を大きくするという目的に対して、筋力トレーニングによって向上させる力はどのように関係するのでしょうか? この速度の変化との関係ということを理解するためには、まず力とは何かということを感覚的にではなく、科学的に正確に理解する必要があります。
 

レジスタンストレーニング挙上速度計測システム「Enode」をバーにマグネットで装着して行うスクワット。2レップ目の速度が0.7m/sであることがリアルタイムでわかる。

力とは何か?すべてはニュートンから始まる

 今から約2300年前、アリストテレスは、物体が大きな速度で運動しているとき、そこには大きな力が働いていると考えました。現在でもそのように考えている人がいるかもしれませんが、その約2000年後、アイザック・ニュートンは、力は運動の原因ではなく、運動の変化の原因であることを突き止めました。そして運動の変化とは速度(速度には方向も含まれる)の変化にほかならず、この速度の変化の大きさを加速度と名付けました。そしてニュートンの第2法則と呼ばれる、F=maという有名な公式を定式化しました。
 FとはForceのF、mは質量massの頭文字、aは加速度を意味するaccelerationの頭文字です。この法則は、mという質量をもつ物体に力Fが作用するとaという加速度を生み出す、ということを意味します。そしてmが一定ならFが大きくなれば、それに比例してaが大きくなり、逆にaが大きくなったということはそれに比例した大きなFが作用したことになります。同じFが作用してもmが大きくなればaは逆に小さくなり、mが小さくなればaを大きくすることができます。

 

動作中に作用する全体の力=力積
 では、スポーツにおける動作中に、力はどのように発揮されているのでしょうか? 図1は、さまざまな運動をしたときに身体と地面との間の相互作用によって発生する力をフォースプラットフォームと呼ばれる装置でとらえた床反力と呼ばれる力のグラフです。このように力は一定ではなく、動作の全体にわたって(といっても0コンマ何秒というごく短時間)変化します。したがって、この力の作用が全体としてどれくらいの大きさだったかを正確にとらえるには、ピークや平均ではなく、力と時間の関係で示された曲線(力ー時間曲線)の全体について理解する必要があります。

 そのための方法として、この曲線より下の部分の面積を見るという方法を用いることができます。この力ー時間曲線の下の面積が運動中に作用したトータルな力とするのです。これを力学の用語で「力積」と呼びます(図2)。
 では、この力積はどのように計算すれば求めることができるでしょうか? グラフが長方形や正方形あるいは三角計であれば計算しやすいかもしれませんが、このように曲線を描いている場合は図3のように、時間をごく短く取った長方形がたくさん集まったものと考え、個々の長方形の面積を計算してそれをすべての動作時間全体にわたって合計します。すると、長方形の面積は、力×時間で求めることができますから、その集合である曲線より下の面積である力積も、力×時間ということになります。力積の記号はImpulseの頭文字をとってI、力はForceの頭文字のF、時間はtimeのtをとって、I=Ftと書くことができます。

運動の勢いを表す指標=運動量
 次に、物体はすべて質量を持っています。体重の重い人もいれば軽い人もいます。砲丸のような重い物体もあれば、野球のボールのような軽い物体もあります。ほとんどのスポーツパフォーマンスは、それらの物体に対してどのような速度の変化が生じるかを問題とするのですから、この質量と速度を別々にではなく、まとめてとらえる必要があります。そのためには、質量と速度を掛けた値を用いてその運動の特徴をとらえることができます。
 日常的な感覚としては運動の激しさや止めにくさとして感じられるこの指標は、運動量と呼ばれ、質量(mass)×速度(velocity)の積、mvで表されます。ラグビーやアメフトで走ってくる相手選手にタックルするとき、速度が同じなら体重の重い選手に対処するほうがずっと大変なのはより大きな運動量を持っているからです。また、数グラムしかない拳銃の弾が大きな破壊力を持つのは、それがとてつもなく速い速度でぶつかるからにほかなりません。
 スポーツという運動における速度の変化は、このようにその対象である身体質量に速度をかけた運動量でとらえることができるのです。このことは、トレーニングで用いるバーベルやダンベルなどの質量にその挙上速度を掛けることと全く同じことです。

 

物体の速度を大きく変化させるために必要なのは大きな力積である
 では、この運動量と力積の間にはどのようか関係があるのでしょうか? ニュートンの第2法則F=maにおけるaに注目してください。aは加速度ですから、速度の変化をそれに要した時間で割ったものです。変化する前の速度をv₀、変化後の速度をv₁、その速度の変化に要した時間をtとおくと、加速度aを求めるには、変化後の速度から変化前の速度を引いて、tで割ればいいのですから、a=(v₁-v₀)/t となります。
 このa をF = m a に代入すると、F=m(v₁-v₀)/t、となります。力がt秒間作用したときの力積を計算するには、左辺にtをかければいいのですが、等式を成り立たせるためには右辺にも同じtをかける必要がありますから、右辺にもtをかけると、F×t=m(v₁-v₀)/t×tとなり、右辺の分母と分子のtが消え、残りの部分を展開すると、Ft=mv₁-mv₀となります。この右辺はt秒間に生じたmvという運動量の変化を意味していますから、力積は運動量の変化と等しいということになります。ここから、「物体の持つ運動量の変化は、その間に物体が受けた力積の大きさに等しい」という法則が導かれます。
 念のために、力積と運動量の関係を単位で確かめてみましょう。力積の単位は力×時間ですから、力の単位であるN(ニュートン)に時間の単位であるsをかけたもの、つまりNsです。力は質量×加速度ですから、力の単位であるNは元をただせば㎏・m/s/sです。これにsをかけたものが力積ですから、分母のsと分子のsが1つずつ消えて㎏・m/sとなり、質量×速度という運動量の単位と全く同じことになります。

 

力積を大きくする3つの方法
 では、力積すなわち図2の曲線より下の面積全体を大きくするためにはどうすればいいでしょうか? それには3つの方法が考えられます。図4の左側には、ジャンプの力積を示しています。この面積を大きくする第1の方法は、ピークの力を増大させることです。するとそれによって面積が増えるのでトータルな力を増加させることができます。第2の方法は力の立ち上がりの最初の部分を大きくする方法です。これは、力の発生率であるRFD(Rate ofForce Development)を向上させることになります。これによっても面積を大きくすることが可能なことが図から理解できると思います。
 

そして最後の方法は、力を発揮している時間を長くすることです。ただこれには少し問題があり、スポーツのテクニックを変えることでこのことは確かに可能となるのですが、これには解剖学的あるいはルールによる限界があります。また力を発揮している時間が長くなると、実際のスポーツ競技場面における相手との対応や駆け引きを考えると力を発揮している時間を無制限に長くすることは不利になり、むしろこの時間は短縮させたい部分となります。
 したがって、短時間の力発揮で力積を大きくするためには、ピークの力を増大させるか、RFDを増大させるかして、全体として力積を大きくするしかありません。

 

ウェイトトレーニングにおける力積と速度の関係
 以上のことはウェイトトレーニングで考えるとどうなるでしょうか? 適切なフォームでウェイトトレーニングを行うと、エクササイズごとの可動範囲は常にほぼ一定です。一定の可動範囲、つまりウェイトの移動距離が一定で、その移動に要する時間が短くなると、挙上速度は増加することになります。
 ウェイトトレーニングのエクササイズではコンセントリック動作の開始時点、つまりエクセントリックからコンセントリックへの切り替えの瞬間の速度は常にゼロです。上述の運動量の説明で言うとこれが v₀になります。そして挙上動作に伴って速度が増し、ある時点で速度がピークに達し、動作の最後にはまた速度は再びゼロにまで減速します。すると、動作途中に示されるピーク速度をv₁とすると、挙上動作における速度ゼロからピーク速度に到達するまでの加速局面の運動量の変化は、mv₁-ゼロですから、挙上開始からピーク速度が出るまでの運動量は、使用するウェイトの質量×ピーク速度v₁と同じになります。
 ウェイトの質量は運動中には変化しませんから、ピーク速度が大きくなったということは、それだけ大きな運動量の変化があったということを意味します。そして大きな運動量が得られたということは、その動作中に発揮された力積が大きかったということと同義です。

 

ウェイトトレーニングにおいて挙上速度を測ることは力を測ることである
 最初に述べたように、スポーツパフォーマンスにとって重要な大きな速度を得ること、つまり大きな速度変化を達成するためには、大きな力積を発生させる必要があり、大きな力積が発生したかどうかは、その運動における速度変化がどれだけ大きいかによってわかるのですから、ウェイトトレーニングの挙上動作における速度の変化の大きさ、つまり速度ゼロから到達した最大の速度がわかればどれだけ大きな力が動作全体にわたって発揮されたかがわかるのです。可動範囲は常にほぼ一定で、ウェイトの質量も挙上動作中には変化しませんから大きな速度を得るためには力積を大きくするしかないのです。そしてその力積を大きくすることは、RFDと発揮されるピークの力のどちらかまたはその両方を増大させることによって可能となるのです。
 ウェイトの挙上動作におけるピーク速度と平均速度は同じではありませんが、ピーク速度と平均速度の相関はきわめて高く、ピーク速度が増大すればほぼ常に平均速度が増大します。したがって、平均速度の変化を追うことでも力積の変化を追うことができます。

 

挙上速度がわかれば1レップごとの発揮筋力の大きさを知ることができる
 以上のことから、動作スピードの向上というスポーツパフォーマンス改善の目標を達成するためには、動作中により大きな力積を発揮できるようになる必要があること、そのことを目的として行われるウェイトトレーニングにおいても、RFDとピークの力のどちらかまたはその両方を向上させることによって大きな力積を発揮する必要のあることがご理解いただけたと思います。そして大きな力積が発揮されているかどうかは、挙上速度を測定することによって確かめられるということがお分かりいただけたと思います。
 セット中、1レップごとにどれだけの速度を発揮しているかを測定してリアルタイムでそれを追跡することは、トレーニング指導者と選手にとって、そのトレーニングが目的達成に向けて適切に行われているかどうかを知るための重要な指標となるのです。
 ウェイトトレーニングは力の向上のために行うのであってスピードは関係ないと考えることは、明らかに間違いです。スピードという言葉から高速動作がイメージされ、軽量のウェイトを素早く挙げるということだと思い込んでいる人がおられるのかもしれませんが、1RMの95%というきわめて高重量のバーは最大に加速しても約0.3m/sという低速でしか挙上できません。しかしそれが0.35m/sの速度で挙上できるようになれば明らかに筋力が向上したという証拠なのです。
 筋力を向上させるためのトレーニングで、最大挙上重量(1RM)や特定重量の最大反復回数(nRM)に頼ることなく、筋力が向上したかどうかを知る最も正確で誰にでもできる簡単な方法が、普段トレーニングで使用している負荷を全力で挙上したときの速度を測るということなのです。

 

参考文献

1. ダン・クレザー著(長谷川裕訳)、FORCE トレーニングのバイオメカニクス、エスアンドシー株式会社発行、2023.