VBTのピリオダイゼーション

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VBT:ピリオダイゼーションにおける活用法

2020/12/14

某MLBチームによる実例紹介

VBT:ピリオダイゼーションにおける活用法

挙上速度を計測しながら行うトレーニングと聞いて、「パワー期やスピード向上を狙う際だけのもの」とイメージされた方は、VBTにはまだまだ多くのメリットがあることを知って驚かれることと思います。今日ご紹介するVBTによるピリオダイゼーションもそのひとつです。

 

単一のトレーニングセッションや一定期間のトレーニングだけでなく、チームスポーツでのシーズン全体を通したウエイトトレーニングにおいても、VBTを応用すれば各個人の能力とコンディションに時期ごとに細かく対応した使用重量が簡単に設定でき、目的とする能力の向上をより確実にコントロールするためのピリオダイゼーションをこれまで以上にスムーズに進めていくことができます。

 

これまでのピリオダイゼーションとその問題点

従来のピリオダイゼーションの手法は、最初に1RM測定を行い、その結果に基づいて各選手の使用重量を設定していました。例えば最大筋力向上期は計測した1RMの90%なので、「A選手は180㎏、B選手は165㎏、C選手は150㎏…」そして、パワー向上期になると1RMの70%なので、「A選手は140㎏、B選手は130㎏、C選手は115㎏…」のように、コーチが各選手の重量を細かく設定し、さらに量に関しては「5セット×3レップ、完遂出来たら次のセッションでは2.5㎏~5㎏プラス」のように全員一律で処方することが一般的でした。

 

しかし、この方法には次のような問題点があることが指摘されてきました。

(1)1RM測定そのものに危険性があるため、頻繁に行って基準値を確認することができない。

(2)1RMには変動があり、トレーニング日の1RMが以前の測定日の1RM値と異なる可能性が高い

(3)規定された例えば「5セット×3レップ」といった量をこなすために、挙上速度を抑えて本来なら発揮できるよりもかなり低いパワーでトレーニングしてしまう。

(4)選手によって調子の悪い日であっても決められた重量とセット×レップ数に取り組まざるを得ず、無理をしてしまってコンディションを崩すことにつながる。

 

 

VBTによる重量設定と反復回数の自動調整

VBTを導入することで、こうした問題点は簡単にクリアーできます。

まず、重量設定ですが、ウォーミングアップで重量を徐々に上げながら挙上速度を計測し例えば「今日は、0.4m/s付近が出る重量で」という指示だけで、チーム全員が確実に最大筋力をターゲットとした重量でトレーニングすることができます。その他のパワー・スピードなどの場合も同様で、目的に応じた速度を指示するだけです。

次に反復回数は、一律に回数をきめるのではなく、挙上速度の低下によってセットを終了するという「VLC: Velocity Loss Cutoff」法を用い、例えば「10%低下で終了」と設定します。

セッションそれ自体も「セット数だけをあらかじめ決めておく」方法のほかに「合計レップ数を決めておき、その回数に到達したらその日のセッションは終了」または「目標の速度が出なくなり、重量を2段階で下げても、まだ目標の速度が出ないような場合にはセッション終了」などの方法でセッション終了のタイミングを決定することも可能です。

 

VBTを用いたピリオダイゼーションの組み方

以上の「目標速度ゾーン」「VLC」「セッション終了の条件」を組み合わせることで、年間のピリオダイゼーションを簡易に組むことが可能となります。

図1は従来の「筋肥大・基礎筋力期」⇒「最大筋力期」⇒「パワー期」⇒「スピード期」⇒「試合期」の流れをVBTの各変数で表した例です。

▲図1. 一般的なピリオダイゼーションに対応させたVBTの速度ゾーンとVLC

このようにすれば、選手の「その日の」コンディションに合った重量を自動的に調整できるため、コーチは細かい指示を出す必要がありません。

扱う重量が同程度の選手を3人1組などでローテーションさせることで、スムーズにトレーニングを進めることができます。

 

MLBチームにおけるVBTによるピリオダイゼーションの例

この方法は年間の中で160試合という長いシーズンを戦うメジャーリーグでも実際に採用されています。図2はMLBのシーズンで実際に用いられた例です。

プレシーズンの1~3月にかけての「筋力期⇒パワー期⇒スピード期」のサイクルで、徐々に0.5m/s⇒0.7m/s⇒0.9m/sとスピードを上げていき、4月以降にシーズンが始まるとさらにスピードを上げて0.6m/s⇒0.75m/s⇒0.95m/sと6月までのサイクルを経て、シーズン終盤へ向けてさらにスピードに重点を置いて、量を落としつつ7月から9月まで0.65m/s⇒0.75m/s⇒1.00m/sという速度ゾーンを用いてサイクルでトレーニングを行っています。そしてシーズン終了後の10月~12月は次シーズンへ向けた準備となります。

▲図2.あるメジャーリーグチームのVBTによる年間ピリオダイゼーション by Eric MacMahon

 

このチームでは年間におけるピリオダイゼーションをこのように速度ゾーンで設定することに加え、実施したトレーニングが本当に目的に狙ったゾーンでできているのかをGymAwareのCloudシステムを使用して管理しています。

 

▲図3. トレーニング目的ゾーン‐実施したトレーニングの挙上速度

この例はあるリリーフ投手の8月~9月にかけてのバックスクワットの結果ですが、Strength SpeedとSpeed Strengthというゾーン付近に一番大きな円があり、スピードとパワーにフォーカスするという目的に合ったトレーニングができていることがわかります。 

こうしたトレーニング状態のモニタリングにより、選手の状態によっては、個別に、敢えて高重量で筋力維持を目的としたトレーニングを行わせるなどの処置も取られます。

 

VBTによるコーチ自身の成長も

このように、挙上速度をモニタリングすることによってS&Cコーチの役割は、「教科書通りの方法で選手一人ひとりの使用重量を計算で割り出して伝える」から、「挙上速度を計測して選手一人ひとりのコンディションに合わせた負荷設定を行い、目的から外さずに効率的にトレーニングを実行させる」に大きく様変わりします。

このように書くと「出て来る数字通りに指示するだけでは、コーチング技術が関係なくなる」と思う方もおられるかと思いますが、実際は逆で、トレーニングフォームの微妙な変化による挙上速度の増減への気づきや、コーチ自身の主観と客観的データを統合した最適な指示が素早く出せるなど、より高度な情報処理能力が求められ、コーチ自身の指導能力の向上にもつながります。

 

選手のフォーム観察を行う目に加え、挙上速度管理という目を持つことで、シーズンを通したトレーニング負荷調整をより確実に、そしてより効率的に行えるようになるのです。

 

ぜひVBTを導入してピリオダイゼーションによるトレーニング効果をより確実に、そしてより効率よく進めてください。

 

 

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長谷川 昭彦 a-hasegawa@sandcplanning.com
エスアンドシー株式会社 営業・企画
スポーツ科学修士、スポーツパフォーマンス分析スペシャリスト

 

長谷川 裕
龍谷大学スポーツサイエンスコース教授
スポーツパフォーマンス分析協会会長
日本トレーニング指導者協会名誉会長
エスアンドシー株式会社代表