トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#22 VBTは最大筋力トレーニングそのものである

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トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#22 VBTは最大筋力トレーニングそのものである

2025/02/25

VBTは最大筋力トレーニングそのものである

記事はJATI EXPRESS No.105に掲載のものです。

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VBTという名称はVelocity Based Trainingで「速度」に基づくトレーニングを意味する言葉である。それが知られるようになった2011年当時、トレーニング現場で速度を測るということは画期的であり、現場で簡単にできる速度測定ということが注目された。しかしVBTのその後の普及と研究と進歩、そしてテクノロジーの進歩により、動作や筋力発揮の詳細をリアルタイムで詳しく知ることができるようになっている。今回は、日々進化を遂げるVBTの現状と本来の目的について紹介する。

 

1. 最大下の筋力発揮の反復では最大筋力の向上は難しい
 もし皆さんが最大跳躍高を高めたいとしたらどのようなトレーニングを行いますか?最大跳躍高よりも低い80%の高さで連続10回ジャンプするようなトレーニングでしょうか。おそらく、誰もそんなトレーニングはしないでしょう。
 ほぼ最大努力で目標とする高さにチャレンジし、そこまで届かなくなったら休憩し、疲労が回復した時点で再びそれを繰り返すというトレーニングをするのではないでしょうか?10mを1.8秒で走ることのできる選手が、10mを常に2.0秒で10本連続で走るというようなトレーニングでスプリントタイムを短縮することができるでしょうか。おそらくできないでしょう。それにもかからわらず、なぜ筋力トレーニングでは、10回連続で持ち上げられるウェイトで反復したり、最大挙上重量の例えば80%という軽いウェイトを何回も持ち上げたりするトレーニングが一般的に行われているのでしょうか。最大筋力を高めることを目的としたトレーニングでなぜ最大下の筋力発揮を繰り返すのでしょうか。最大筋力を向上させることが目的なのなら、最大筋力発揮そのものを繰り返し、疲労したら休憩をはさんで再び最大筋力を発揮するというトレーニングを行う必要があるのではないでしょうか。
 もっとも、持久力トレーニングなら話は別です。最大有酸素性走速度が時速20kmの選手がそれを向上させるためには、例えばその80%に相当する時速16kmで10秒走り10秒休むといったインターバルトレーニングをすると効果があることは明らかです。
 ここには、トレーニングで働きかける対象となるエネルギー代謝システムの違い(ATP-CP系かそれとも解糖系と有酸素系か)や器官・組織(呼吸器や心臓の筋肉か骨格筋か)や動員させる骨格筋筋線維のモーターユニットのタイプと数の違い(FTかSTか)があります。
 有酸素的な持久力向上のためには、一定割合の最大下の能力で反復することは効果的ですが、最大跳躍高や最大スプリント能力を向上させるうえで最大下の能力発揮を反復することにはあまり意味がないことは明らかです。
 最大筋力を向上させるためには最大筋力発揮を反復するのが最も効果的です。このことから、最大挙上重量(1RM)に近いウェイトをただゆっくりと何回も持ち上げているよりも、たとえそれより軽いウェイトであっても発揮している力の大きさを確認しながら、最大の力を発揮するということを繰り返せば、それによって自然と1RMも向上することになります。

 

2. 発揮している筋力の大きさはウェイトのkgだけではわからない
 そもそも最大筋力とは何でしょうか?
 かつて、ウェイトルームで筋力(筋肉活動によって生み出される動作で発揮可能な力)を測ることができなかった時代、誰の筋力が大きいかを調べるためには、誰がより重いものを持ち上げるかを比べるしかありませんでした。
 また、自分の筋力が向上したかどうかも何kgのウェイトを持ち上げることができるようになったかで判断していました。
 現在でも、筋力を測る手段がない現場では、誰がより重いウェイトを持ち上げることができるかということで、力くらべが行われています。
 このように、筋活動によって生み出される動作で発揮可能な力の大きさをkgという数字の大小によって判断していたのは、そうするしか他に方法がなかったという時代の制約からなのです。
 しかし、物理学の基礎を理解し、それに基づいてウェイトトレーニングを科学的に行おうとすれば、持ち上げているウェイトの重さ(正確には質量)が何kgなのかわかったとしても、どれだけの力を発揮しているかはそれだけではわからないことはすぐに理解できます1)。
 なぜなら力というものは、ある物体がもともと持っている固有の量としての質量とは別の物理量であり、発揮される力の大きさはその質量をどれだけ加速するかによって決まるからです。つまり「力=質量×加速度」だからです。

 

3. 加速度を生み出すのが力
 同じ質量(kg)であっても、それを持ち上げるときの加速度(m/s/s)が変われば実際に発揮される力は変化します。この力の単位はN(ニュートン)です。ウェイトを挙上するときの加速度がわからなければ、そのウェイトに対してどれだけの力が発揮されているのかはわかりません。
 ただし、現場で加速度を測らずに力を知る方法が1つだけあります。それは一定の姿勢で保持できるウェイトの質量(kg)に重力加速度を掛けるという方法です。一定の質量(kg)のウェイトには、常に地球の引力つまり重力という力によって重力加速度が作用しています。この加速度の大きさは、9.81m/s/sです。したがってある質量のウェイト、たとえば100kgのウェイトを一定の姿勢で保持できれば2)、そこで身体の筋活動が全体として発揮している力は100kg×9.81m/s/s、つまり981kg・m/s/sと釣り合っていることになります。kg・m/s/s=Nですから、981Nだということがわかります。この方法で実際に保持できるウェイトの質量から最大筋力を測るというのは現実的ではありませんが、理論的にはそういうことです。
 しかし、たとえゆっくりであっても ウェイトを重力に抗してただ支えてい るだけではなく、少しでもウェイトを挙上すれば、発揮している力の大きさは上向きの加速度(記号でa)によって変化します。したがって加速度は重力加速度+aとなります。加速度が大きくなればそれに直接比例して発揮される力は大きくなります。最大挙上重量が100kgの人が90kgのウェイトをただ持ち挙げるだけではなく、全力でできるだけ速い速度で持ち挙げようとすれば、見かけは遅くてもそこでより大きな加速度が発生し、100kgを支えているだけよりも大きな力が発生することになります。
 ですからどんな重さのウェイトであっても、それを持ち挙げるときの加速度を知ることができれば発揮している力の大きさが直ちにわかるのです。
 

 

4. なぜVBTは速度を測るのか?
 では、どうすればトレーニング現場で加速度を測れるのでしょうか。そして、どうすれば発揮している力を知ることができるのでしょうか。実は今日、高性能なVBT機器は筋力を表示します。安価なもののなかには速度しかわからないものや、その速度さえ妥当性と信頼性が確かめられていないものもあり、注意が必要ですが、GymAware、Vitruve、Enode、Flex、OUTPUT、Perchといった世界的に普及しているデバイスではどれも筋力を表示します。
 VBTという用語が世界的に使われるようになったのは2011年以降ですが、それよりも10年以上前に、ウェイトトレーニングの現場で筋力を測ろうという動きが始まりました。その頃のセンサーテクノロジーはまだ今日のような進歩を遂げておらず、リニアポジショントランスジューサー(LPT)のプロトタイプが用いられていました。この装置は速度を測るものでした。バーに取り付けたケーブルが引き出される距離を、それに要した時間で割ることで速度を求めていました。
 速度を測ることができれば、その速度が速くなればそれだけ大きな加速度が生じたことがわかります。加速度というのは速度の変化率、つまり1秒当たりどれだけの速度が変化したかということですから、その速度が大きくなればそれだけ大きな加速度が生じたことになります。ただ、当時使い始められていたLPTでは速度情報から正確な加速度を求めそこから力を表示するには不十分でした。ですから速度を知ることでその速度が増せば大きな力が発揮されていると判断していたのです。
 しかし、その後のテクノロジーの進歩によってIMUと呼ばれる加速度センサーが使用されるようになりました。これは加速度を直接測るものですから、その加速度に質量を掛ければそのまま力を表示することができるのです。
 このように、VBTは本来ウェイトトレーニングの現場で選手が実際に発揮している力そのものを知るために生まれたものなのです。

 

5. VBT:スピードを測るだけじゃもったいない
 VBTという名称は確かにVelocityBased Trainingで「速度」に基づくトレーニングを意味する言葉です。それは上述したように、kgしか評価基準がなかった2011年当時の世界のストレングス&コンディショニングの現場にとっては、トレーニング現場で速度を測るということは画期的であり、速度を基準にすることで間接的ではあっても発揮されている力を知ることができ、それによって正確に選手のコンディションに応じた負荷設定や疲労のコントロールもできるということで、現場で簡単にできる速度測定ということが注目されたのです。
 しかしVBTのその後の普及と研究と進歩、そしてテクノロジーの進歩により、今日のVBTデバイスは単に平均速度だけではなく、ピーク速度を表示したり、動作のどこでそのピーク速度が出ているのかをグラフと映像で同期させて確認したり、挙上するバーの軌跡を表示させたり、選手が実際に発揮している力とその変化をリアルタイムでダイレクトにフィードバックできたり、コンセントリック局面だけでなくエクセントリック局面のスピードや可動域をチェックしたり等々と、いままで研究室の大掛かりな装置がなければ知ることさえできなかった動作や筋力発揮の詳細をリアルタイムで詳しく知ることができるようになっています。
 そうした動作分析と筋力やスピード発揮の特徴を組み合わせて選手の指導をされている指導者も増えてきています。
 また、重さと回数、そして主観的な疲労度だけではわからなかったトレーニング中の微妙な感覚をそうしたさまざまな数値と照らし合わせ、すり合わせることでさらに研ぎ澄まし、自分のパフォーマンスの変化に照らしてトレーニングの効果を実感している選手も決して少なくありません。

 

結論
 このように、VBTというのは本来、対象となるウェイトに対して発揮できる最大の力を調べ、それを向上させることを目的として生まれ発展してきたものであり、筋力を向上させることを目的として取り組まれるウェイトトレーニングの必然的な到達点、あるいは帰結であると言っても言い過ぎではないと考えます。その意味ではこうしたトレーニングを“Velocity”という言葉にいつまでも代表させておくのは必ずしも正確とは言えないかもしれません。
 いずれにせよ、VBTとはただ速度を測るトレーニング、あるいは高速で行うトレーニングではなく、最大筋力トレーニングそのものであると言うことができるのです。

 

註)
1. ダン・クレザー著、長谷川裕訳「FORCE トレーニングのバイオメカニクス」オリンピア印刷、2023.
2. 骨格によってささえているだけではなく、関節を曲げて実施に筋活動によって保持できていること。
 

 

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