トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#13 パーセンタイル順位表の作成
2024/08/20
あるパフォーマンステストの結果から、その値が全体に占める位置をより正確に伝えるためには、統計的な方法が必要となる。今回は、エクセルを使って簡単に計算できるパーセンタイルという評価法を取り上げる。
本誌No.87では、得られたデータに含まれる測定誤差を除いた真の値を知る方法、そしてその値から実際に変化したと判断してよいかどうかを決める基準値、すなわち最小有効変化量を求める方法を紹介しました。
そこで今回は、いろいろな測定をしたとき、よく選手から聞かれる「コーチ、僕のこの値ってどれくらいのレベルなんですか? もっと上の人はどれくらい出すんですか?」という質問に根拠を持って的確に答えるための簡単な方法について解説します。
ある値がデータ全体に占める位置を知りたい
得られた値が、どれくらいのレベルかについて知りたいときに最も一般的に用いられる方法は、平均値と比較する方法でしょう。これは誰でも小学生のときからテストの平均値と自分の点数を比べて一喜一憂した覚えがあると思います。私も、平均値より大きいか小さいかで、クラスや学年に占める自分の位置が、上のほうだとか下のほうだとか、あるいは真ん中くらいといったように想像したものです。
しかし、統計学の基本を学んだ皆さんは、それだけではそのクラスに占める自分の位置についてはわからないということがお分かりかと思います。つまり、平均値とは、データの合計をデータの個数で割って得られる値であるため、極端に高いまたは低い点数の人がいると、それに引っ張られて、平均値がその集団の順位的な真ん中から大きくずれてしまうということが起こります。
極端な例をあげると、あるテストを受けた3名の点数がそれぞれ30点、35点、40点だった場合、平均点は35点ですが、ここに100点の人が1人加わると、平均点は51.25点となり、4名中3名は平均以下となってしまいます。これに対して中央値は、データを大きさの順に並べ替えたとき、ちょうど順番が真ん中になる値のことです。データ数が奇数であればその真ん中の値、偶数であれば真ん中の値の平均値をとります。
中央値と比較することで、平均値ではわからなかった自分の得点が、その集団に占める位置については明確となります。しかし、中央値と同じあるいはほとんど同じ値であれば、真ん中くらいであることはわかっても、それより大きいあるいは小さい値であれば、集団に占める相対的な位置まではわかりません。ですので、あるパフォーマンステストの結果から、その値が全体に占める位置をより正確に伝えるためには、別の統計的な方法が必要となります。そのためにはいくつかの方法がありますが、ここではエクセルを使って簡単に計算できるパーセンタイルという評価法を取り上げます。
全体を100とした位置を示すパーセンタイル順位
パーセンタイルとは、データ全体の総数を100として、ある値が全体に占める位置を文字どおりパーセントで示すための方法です。例えば、垂直跳びの測定をして、ある選手の跳躍高が36㎝だったとした場合、「これってどれくらいのレベルなんですか?」とたずねられたときに、その値がパーセンタイルで80だとすれば、「これまでに得た垂直跳びの記録全体でいうと、上位20%くらい」と答えることができます。そして、パーセンタイル値と跳躍高の対応関係をまとめたパーセンタイル順位表があれば、上位10%あるいは5%に入るにはあと何センチ跳ぶ必要があるか、ということもわかります。
パーセンタイルは、このように保有しているデータ全体を有効に活用して、ある値がその全体に占める位置をパーセントという誰にでもわかりやすい位置で示すことができます。そしてパーセンタイル順位表を作成しておくことで、どれくらいの測定値をだせば、上位何パーセントに入れるか、という具体的な目標値を明確にすることができます。さらに、複数の測定種目ごとにパーセンタイル順位表を作成しておけば、自分がさらにレベルアップするためには何をどこまで伸ばす必要があるか、というトレーニング戦略についての判断も可能となります。
パーセンタイル順位はエクセルで簡単に求められる
エクセルでパーセンタイル順位を求めるには、PERCENTRANK関数を用います。わかりやすくするために、簡単な具体例で見ていきましょう。表1は、大学サッカー選手15名の10mスプリントのタイムです。平均値は1.89秒です。これがパーセンタイルではどれくらいになるか見てみましょう。
パーセンタイル値を表示させたいセルに、=PERCENTRANK.INCと入力します。途中まで入力して表示された関数を選んでも同じことです。そして、(の後ろに、データの配列全体を選択します。続けてカンマを打ち、その後ろに1.89のセルを選択するか、1.89と入力し、 最後に閉じカッコ(「)」)を入力してカッコを閉じてエンターを押します。すると、0.357と表示されるはずです。つまり、1.89秒という平均値は、15名の50%ではなく、上位36%の位置にある記録であることがわかります。
今、PERCENTRANKの後ろに.INCと入れましたが、これは0%と100%、つまりこのデータ範囲における最低と最高を含めるという意味です。このようにして、たとえば、この中で最も良い記録である1.70を指定すると、0と示され、最高記録であることがわかります。
パーセンタイル値の計算と解釈で注意する必要があるのは、測定値の数値が大きいほうがいいのか、それとも小さいほうがいいのかによって、パーセンタイル値で示される数値の意味が逆になるという点です。PERCENTRANKで表示される数値は、最大値を1.0つまり100%とし、数値が小さくなるにつれて順位が下がっていき0%が最低値となります。
これはデータを昇順に並べても降順に並べても関係なく、測定値の値が大きいものが1.0になります。ですので、スプリントタイムのように数値が小さいほうがいい場合、上の例のように0.357(≒0.36)と示されたときは、上位36%という意味になります。ですから、これが、最大スピードや跳躍高や最大有酸素性速度のように、数値が大きいほうが優れていることになる測定においては、下から36%という位置になります。次に示すパーセンタイル順位表を作成するときに注意が必要です。
パーセンタイルに対応する測定値の一覧表の作成
以上は、ある値の全体に占める順位から、全体を100%としたときのパーセント値を求める方法でしたが、今度は、データ全体を100%としたときに、例えば上位30%に当たる測定値はどれくらいか、上位10%に入るためにはどれくらいの数値を出す必要があるか、という、パーセンタイル値に対応する測定値を知る方法について説明します。
このためには、PERCENTILE関数を用います。最高値と最低値を含めて求めたいので、PERCENTILE.INCを使用します。先のデータをもとに、100%から順に10%ずつのパーセンタイル値を求めることにします。
先ほどのデータテーブルの横に、100%から0%までのそれぞれのパーセンタイル値に対応した測定値を表示させる表を用意しておきます。そして100%、すなわち最高値を表示させたいセルに、=PERCENTILE.INC(と入力し、データの配列を選択します。さらに、カンマの後ろに、0と入力してカッコを閉じてエンターを押します。すると、1.70、つまりこのデータの中の最も小さな値が表示されます。
次に、90%に相当するタイムがどうなるか計算しましょう。上と同じですが、カンマの後ろに今度は、90%に相当する率である0.1と入力します。80%に相当するタイムを求める率は0.2、70%は0.3、30%なら0.7です。各%のセルに関数を入力しなくても、一番上の100%のセルを下にドラッグして、率だけ書き換えればいいのですが、=PERCENTILE.INC($A$1:$A$15,0)のように、指定する配列に$マークを忘れないように入れてからドラッグしてください。これがないと配列の選択がずれてしまうので注意が必要です。
こうしてすべて計算したのが表2です。 表2には左側の実際の測定値にはない数値が並んでいますが、これは、選手の数が15名なのに対して、それをパーセンテージに対応させるように、タイムを計算しなおしているからです。この表からどんなことがわかるでしょうか? 例えば上位20%以上に入るには、80%に対応する1.78秒以下の数値を出す必要があることが一目でわかります。そこから0.02秒短縮できれば、上位10%に入れることもわかります。自分のタイムが1.93秒だった選手は、40%以上60%未満に位置することがわかります。その他、さまざまな角度で選手が自分の記録を客観的に見つめるために非常に役立ちます。
サッカーチームのパーセンタイル順位表(例)
表3は、ある大学のサッカーチーム(33名)の1回の測定結果をもとにして作成したパーセンタイル順位表の例です。
スプリントテストは、Witty-SEMを使った反応ありスタートでしたから、反応時間が記録されています。反応を含めない動き出しから5mまでのタイムと、20-30mの区間タイムから、出だしのスピードとトップスピードを計算しています。アジリティは、アローヘッドテスト1)の左右の平均、ドリブルはテクニック面のテストで、ショートドリブルテスト1)の結果です。反応アジリティは、Witty-SEMを使ったY字アジリティ、垂直跳びとバネ指数(RSI)は、PUSHによる測定値、MASは、SportBeeperを使った30-15IFTテスト2)の結果である最大有酸素性スピードです。
パーセンタイルの計算では、測定値が小さいほうが良い反応時間やその他のタイムの種目では最高値の率は0から、0.1、0.2と大きくしていきますが、スピードや垂直跳び等、測定値が大きいほうがいい種目では、最高値の率は1から、0.9、0.8と小さくしていきます。
このパーセンタイル順位表は、33名を対象として1度だけ行った測定結果から作成したものですから、その時点でのチーム内の位置についてはわかりますが、もっと多くの同じ大学生サッカー選手の中の位置についてはわかりません。それを知るには、何年も継続して行うことで蓄積してきた測定データを用いるとか、他のチームのデータと合わせてパーセンタイル順位表を作成する必要があります。もちろん、異なる年齢や競技レベルの測定値をすべて一緒くたにしてしまうことは避ける必要があります。むしろ、別のパーセンタイル順位表にすることで、現在の年齢や競技レベルではこれくらいのランクだが、上の年齢や競技レベルではあれば、それがどのくらいのランクなのかがわかります。
”パーセンタイルとは、データ全体の総数を100として、ある値が全体に占める位置を文字どおりパーセントで示すための方法である。”
パーセンタイル表による個人評価と目標設定
さて、この表には、網掛けをした部分があります。これはある選手(フォワード)の測定値がどの範囲に位置づくかを示したものです。これを見ると、この選手はスプリント能力に優れた選手であることがわかります。特にトップスピードでは、チームの最大値を記録しています。しかし、反応時間や反応を含むアジリティでは、中間的な位置にとどまっており、持久力では下位に位置することがわかります。スプリントやアジリティが上位20%以内に位置しているのに、反応アジリティが中間位にとどまっているのは、反応時間が中位なのと関係しているかもしれません。最大有酸素性スピードがチームの下位10%というのは、さらに上のレベルで競技を続けるためには、大きな改善が求められます。
この選手の目標は、チーム随一のスピード能力、特にトップスピード能力を生かすためには、反応や反応アジリティを改善することが求められ、反応時間で0.33秒、反応アジリティで1.4秒を切れるようになれば上位20%に入ってくることがわかります。また、MASでは19.5km/h、30-15IFTテストでいえばあと2段階のスピードまで走れれば上位20%に入れることがわかります。
このように、パーセンタイル順位表を作成すれば、あとは選手個人が自分の値をそこに当てはめることによって、「コーチ、僕のこの値ってどれくらいのレベルなんですか? もっと上の人はどれくらい出すんですか?」といった疑問に簡単にかつ的確に答えることができるのです。
参考文献
1) ヤン・バングスボ、マグニ・モア著、長谷川裕・安松幹 展訳、パフォーマンス向上に役立つサッカー選手の体 力測定と評価、大修館書店、2015.
2) 長谷川裕、この冬から取り組みたい合理的インターバ ルトレーニング法「最大有酸素性スピードの測定に基 づく相対的な走速度の決定とトレーニング管理(2)、 JATIEXPRESS、Vol.92,2022.