トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#19 フリーウェイト以外のレジスタンストレーニングで 発揮される筋力を測る意義と方法

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トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価#19 筋力を知り、負荷を知る

2024/09/03

真の「筋力」トレーニング

フリーウェイト以外のレジスタンストレーニングで 発揮される筋力を測る意義と方法

記事はJATI EXPRESS No.102に掲載のものです。

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【概要】

・フリーウエイトで発揮している力は速度を測ることでわかる

・筋力を知れば負荷がわかり、負荷がわかれば負荷コントロールできる

・フリーウエイト以外では?

・SUIFF PRO S2を用いたプル系種目の筋力測定

・SUIFF PRO S2を用いた膝の屈曲/伸展筋力の測定

・低負荷で行うローテータカフトレーニングの評価

・パロフプレスにおける体幹の抗回旋筋力と筋持久力のモニタリング

 

筋力を向上させるためのレジスタンストレーニングは、フリーウェイト種目だけではない。ウェイトスタックのケーブルマシン、弾性バンドやチューブを用いたエクササイズ、TRXのような自体重を用いたサスペンションエクササイズなどさまざまである。では、これらのエクササイズで実際に発揮されている力はどのようにすれば知ることができるのか。今号では、これまで推測の域を出ることがなかったそれらのレジスタンストレーニング中に発揮されている力を、客観的に知ることができるようになったというSUIFF Pro S2の活用法について迫ってみたい。

 

1.フリーウェイトで発揮している力は速度を測ることでわかる

 「最大筋力の向上を目的としたトレーニングで、適切な過負荷となるだけの十分な筋力が発揮されていなければ、筋力向上は期待できない」。これはトレーニングの大原則です。では、例えばスクワットで発揮できる最大筋力を向上させることを目的としたトレーニングで、どれくらいの大きさの筋力が発揮されているかはどうすればわかりますか?これに対して、「バーベルの重さが何㎏かで知ることができる」と答えた人は、専門職としてのトレーニング指導者としてははっきり言って失格と言わざるを得ません。「可動域をきちんと見なければならない」「その重さで何レップ、何セットできるか、どれだけの休息時間で何セットこなせるかも関係する」と付け加える人もいるかもしれませんが、それでもダメです。なぜなら、そもそも力の単位はN(ニュートン)であり、質量の単位としての㎏とは全く別の物理量です。同じ質量のバーベルであっても、それをどれだけ加速するか、したがってどれだけの速度でそのバーベルが挙上されたかによって発揮された力の大きさは全く異なります1)

 例えば今、私の手元にある8㎏のケトルベルにEnodeを取り付け(図1)、動作をゆっくりとコントロールしてワンハンドロウをすると、平均速度は0.46m/sで、動作中に示されたピーク筋力は92Nでした。しかし、次に全力で最大速度を出そうとして持ち上げると平均速度は1.36m/sとなり、ピーク筋力はほぼ倍の183Nになりました。同じ質量のウェイトであってもそれを挙上する速度が変われば発揮される力は全く異なる、それによって力を発揮するために行った神経-筋活動の生理学的な中身は全く異なったものになる。これが速度を基準として行うトレーニング、すなわちVBTの本質にほかなりません2)。

2.筋力を知れば負荷がわかり、負荷がわかれば負荷コントロールができる

 VBTでは以上のように、ウェイトを挙上する速度を測ることによって、エクササイズ動作中に発揮される力の大きさの変化を見ているのです。トレーニングの動作中に発揮される力の大きさを1レップ毎にリアルタイムで知ることができれば、次のような点で効果的なトレーニングをより安全に実施することができます。 

 第1に、目標とする筋力値に到達し反復できるように集中力を高め、動作や姿勢に注意してより大きな力を発揮しようとするモチベーションを高く維持することができます。それによってより多くの運動単位がタイミングよく同期されて動員されるようになります。第2に、実際に発揮している筋力が低下しているにもかかわらず、無理やり反復を継続することによるケガの発生や、オーバートレーニングにつながるような無駄な疲労を避けることもできます。そして第3に、同じ質量の負荷を用いていても挙上速度が速くなれば、筋力が向上していると判断することができ、逆に挙上速度が速くなってこなければトレーニングの成果が出ていないと判断することができます。さらに睡眠や栄養やトレーニング以外のストレスによる日々の体調の変化を察知できるという利点もあります。 

 このように、トレーニング動作中に発揮される実際の筋力を知ることができれば、トレーニングの負荷をより適切にコントロールすることが可能となるのです。

 

3.フリーウェイと以外では?

 筋力を向上させるためのレジスタンストレーニングは、このようなフリーウェイト種目だけではありません。ウェイトスタックのケーブルマシン、弾性バンドやチューブを用いたエクササイズ、TRXのような自体重を用いたサスペンションエクササイズ、固定されて動かないケーブルの牽引によるアイソメトリックエクササイズ、フライホイールを用いた等慣性装置によるエクササイズ、空気圧マシーン等々があります。 

 これらのエクササイズでは、フリーウェイトで用いられているようなVBTデバイスによって、エクササイズ中に発揮された力を測定することはできません。しかし、フリーウェイトと同じように、実際に発揮されている力の大きさを客観的に知ることができれば、より安全により効果的なトレーニングを行うことができるのは明らかです。では、どのようにすればこれらのエクササイズで実際に発揮されている力を知ることができるでしょうか? 

 そのために用いられる代表的なテクノロジーがストレインゲージと呼ばれるものです。金属に力が加えられてその形状に歪(ひずみ)が生じると、それによって電気抵抗の変化が起こり、その微細な変化から加えられた力の大きさを測定します。このストレインゲージを内蔵した専用のセンサーの両端にケーブルを取り付け、そのケーブルをエクササイズ運動によってピンと引っ張ることでケーブルの両端に加わる牽引力(張力)が測定されます。 

 こうしたストレインゲージを応用した張力の測定は、これまでもバイオメカニクスの研究で用いられることはありましたが、大掛かりかつ煩雑でトレーニング現場で日常的に使うようなものではありませんでした。しかし昨年スペインの会社から、エクササイズ中にリアルタイムフィードバックを提供する機能を備えた手頃な価格の実用的なワイヤレス張力測定器(SUIFF ProS2)が発売されました(図2)。

100Hzで力データを取得し、Bluetoothで接続されたスマートフォンまたはタブレットに力-時間曲線が動作中に示されるとともに、ピーク力および平均力が数値データでリアルタイムに表示されます。さらに測定終了後すぐに、任意の区間におけるピーク力に到達するまでの時間と力を発揮していたトータル時間といった他のパラメータを表示させることができます。 

 200㎏重までの負荷に耐えることができるセンサーであるにもかかわらず、本体質量はわずか120gと非常に軽量であるため、カラビナを用いてケーブルやチューブとブリップの間に取り付けても動作中に揺れたりたわんだりすることなく、トレーニング動作に影響を与えるような余計な重さが抵抗として追加されることもありません。 

 このSUIFF Pro S2 を用いることで、これまで推測の域を出ることがなかったさまざまな種目のレジスタンストレーニング中に発揮されている力を客観的に知ることができるようになりました。 

 SUIFF Pro S2で得られるデータの高い妥当性と信頼性は、フォースプラットフォーム上でのアップライトローイング動作におけるアイソメトリックおよびエラスティックバンドを用いた動的な筋力についての研究ですでに明らかにされています3)。ですから、さまざまな種目の筋力測定やモニタリングに自信を持って使用することができます。

 

4.SUIFF Pro S2を用いたプル系種目の筋力測定 

 これまでは重さと回数、そして動作のテンポでしかコントロールできなかったラットプルダウンやローイングマシンにおけるトレーニングも、SUIFFPro S2を用いることで、実際に発揮されている力の大きさ、力の入れ始めからピーク力に到達するまでの時間、さらには、エクセントリック局面でしっかりと力を発揮できているかどうかや、動作全体に渡って力が発揮されている時間(time under tension:TUT)を知ることができます。それにより、同じ重さを使用していても、実際に発揮している力が異なることや、セットの後半に疲労によってエクセントリック局面をゆっくり行うことができず力がかからなくなるということもグラフによって一目瞭然でわかります(図3と4)。 

 これは自体重によるサスペンションエクササイズでも全く同じです(図5)。

5.SUIFF Pro S2を用いた膝の屈曲/伸展筋力の測定 

 ハムストリングの大腿四頭筋に対する筋力比であるH/Q比それ自体は、従来言われていたようにハムストリングの肉離れや前十字靭帯損傷の独立した原因ではないという最新のシステマティックレビューが示されてはいますが4)、パフォーマンス向上のための左右差の解消やリハビリテーションの進捗状況の確認のために、膝の屈曲や伸展の筋力を測定することはそれ自体有用です。 

 ハムストリングのエクセントリック_筋力については、ノルディックハムストリングテストが用いられることがありますが、負荷が非常に高く、筋力レベルによっては安全に実施できないという問題が指摘されてきました。そこで、ケーブルマシンや固定されたラックの前で伏臥位をとって膝を90度に屈曲し、SUIFF Pro S2をケーブルに取り付けるという方法を採用することで、より安全かつ正確にハムストリングのアイソメトリック筋力や動的な筋力を容易に測定することができます(図6)。また、膝伸展のアイソメトリック筋力も、施術ベッドやテーピングテーブル等の上に座り、SUIFF ProS2を介して非弾性ストラップを足首に取り付けることで簡単に測定することができます。

6.低負荷で行うローテーターカフトレーニングの評価 

 ローテーターカフのトレーニングは、通常、低負荷の弾性チューブやバンドで行いますが、SUIFF Pro S2によって負荷のかかり方を正確にリアルタイムでモニタリングすることで、トレーニングをより効果的に実施することができます(図7)。例えば外旋動作を30回行うようなトレーニングで、20レップを超えるとチューブやバンドが短縮する際に力を抜いてしまい、エクセントリックな負荷がきちんと掛かっていないといった問題を回避することができます。 

 また、チューブやバンドの種類やどれくらいの長さまで伸ばすかによって掛かる負荷の大きさが変化しますが、それをコントロールするためにも、リアルタイムで力の発生状態を確認することが役立ちます。

7.パロフプレスにおける体幹の抗回旋筋力と筋持久力のモニタリング 

 ソフトボールや野球、テニスやバドミントンあるいはゴルフのような体幹の回旋が重要となるスポーツにおいて、パフォーマンス向上のためだけでなく腰痛の発生を予防する上でも腰椎-骨盤-股関節複合体の水平面上でのアイソメトリックなエクササイズの有効性が指摘されています。そのようなエクササイズの1つに抗回旋エクササイズとしてのパロフプレスがあります5)。 

 パロフプレスは、スクワットラックなどの動かないものに固定した弾性バンドやチューブ、あるいはケーブルマシンのグリップを十分な張力が得られるようにして胃の高さの身体前面に付けて両手で保持し、足を肩幅に開いてクォータースクワット姿勢を取ります。弾性バンドやチューブやケーブルの固定点が身体の真横に来るように立ち位置を調整します。そこから肘をゆっくりと伸ばしてグリップ部を身体の前面に伸ばします(図8)。 

 すると、張力が増すとともに、テコの腕が長くなるため、身体を回旋させようとする力が大きくなりますが、その力に対抗して安定した姿勢を維持するようにします。再び肘を曲げてグリップを身体に付け、一呼吸おいて2回目の肘伸展を行います。これを数レップ反復します。伸展位を3秒ほどアイソメトリックにホールドすることにより、TUTが増加し負荷が大きくなります。レップ数を増やすことでさらにTUTが延長し、体幹のスティフネスを高めるための負荷を高くすることができます6)。 

 さらにクウォータースクワット姿勢からランジ姿勢へと漸進させることで負荷を高めることができます。 

 このパロフプレスにおいても、SUIFF Pro S2を用いることで、張力のコントロールとモニタリングそしてTUTを確認することができるようになり、コアの筋持久力と安定性を客観的かつ段階的に高めることが可能となります。

 

おわりに 

 フリーウェイト以外のレジスタンストレーニング種目においても、エクササイズ中に実際に発揮されている力を客観的にリアルタイムでモニタリングできるということは、トレーニング強度を適切にコントロールし、より安全にトレーニング効果を高めるうえで極めて有効であることがおわかりいただけたと思います。 

 特に中高年やリハビリテーションにおいては、大きな外的負荷に耐えることによるリスクを回避するためにも、自身で発揮する力を制御できるアイソメトリック筋力の測定は大いに役立ちます。また、意識しないとつい力を抜いてしまうセット後半や、エクセントリック局面での力の発揮を意識づけるためにも、リアルタイムでの力のモニタリングは大いに役立ちます。

 

参考文献

1. ダン・クレザー著(長谷川裕 訳).FORCE トレーニングのバイオメカニクス. オリンピア印刷株式会社, 2023.

2. 長谷川裕.VBTトレーニングの効果は「速度」が決める.草思社, 2021.

3. Victor Illera-Dominguez, Luis Albesa-Albiol,Jorge Castizo-Olier, Adrian Garcia-Fresneda, Bernat Busca, Carlos Ramirez-Lopez, and Bruno Fernandez-Valdes. Reliability and validity of a low-cost, wireless sensor and smartphone app for measuring force during isometric and dynamic resistance exercise. PLOS ONE h t t p s : / / d o i . o r g / 1 0 . 1 3 7 1 / j o u r n a l . p o n e . 0298859 March 21, 2024.

4. Eleftherios Kellis, Chrysostomos Sahinis Vasilios Baltzopoulos. Is hamstrings-toquadriceps torque ratio useful for predicting anterior cruciate ligament and hamstring injuries? A systematic and critical review. Journal of Sport and Health Science.12(3), 343-358. 2023.

5. Michael Mullane, Anthony N. Turner, and Chris Bishop. The Pallof press. Strength & Conditioning Journal. 43(2), 121-128, 2021, (日本語訳: Strength and Conditioning Journal Japan. 29(1), 77-82, 2022) .

6. Benjamin C. Y. Lee, Stuart M. McGill. Effect of long-term isometric training on core/torso stiffness. J Strength Cond Res. 29(6), 1515- 1526, 2015.

牽引力計測デバイス SUIFF PRO S2

SUIFF PRO S2の詳細はこちらから

※SUIFF PRO S2のご使用には別途Android端末(タブレット・スマートフォン可)が必要です。

※アプリは無料で取得いただけます。日本語操作ガイドも付属致します。

 

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