トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価 #10 マルチ機能評価システムOUTPUT
2023/03/10
トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価 #10 OUTPUT
シンプル&ポータブル、かつ高性能IMU1台だけでのマルチ運動機能評価システムの活用
今日、トレーニング指導の現場において、データ取得が必要であるという認識と、 その定期的・継続的実施がいわば当たり前になった。今回は、こうした状況に応えるべく、 高い科学教育水準とラグビーに代表されるスポーツの盛んなアイルランドで 新たに開発されたOUTPUTというシステムについて紹介する。
今日、スポーツやフィットネスのためのトレーニングを科学的・合理的に指導し、効率よくかつ安全に成果を上げるために、客観的なデータの必要性を否定したり軽視したりする指導者はもはや存在しなくなったといっても過言ではありません。筋力、パワー、スピード、アジリティー、跳躍高、RSI、柔軟性(可動域)、バランス、スタビリティー、持久力…といった様々な体力要素やパフォーマンスと、それらのより分析的な項目を客観的なデータとして取得しモニタリングすることなしに、適切な負荷の設定やトレーニングの成果の判断を主観だけで行うことは不可能です。
さらにはトレーニングセッションに対する主観的運動強度や睡眠や気分といった、選手やクライアントの主観にかかわる心身の状態も、客観的な数値スケールを用いてデータ化することによって、体調をより正確に把握することが可能となってきています。
トレーニング指導の現場において、こうしたデータ取得が必要であるという認識と、その定期的・継続的実施がいわば当たり前になった今日、求められているのは、取得したデータをトレーニング指導における具体的な意思決定にシームレスに役立てるために、現場で効率よく簡単に短時間で精度の高いデータを取得し、複雑な分析を経ずに、適切な判断が可能となるようなシステムの必要性とその利用です。
今回は、こうしたニーズに応えるべく、高い科学教育水準とラグビーに代表されるスポーツの盛んなアイルランドで新たに開発されたOUTPUTというシステムについて紹介することにします。
1.アクショナブルデータ
環境の変化に対する素早い意思決定が求められるビジネス分野と同様に、スポーツにおいても、データのためのデータの時代は終わり、得られたデータから直接的に何らかの判断や行動につながるデータ、すなわち“アクショナブルデータ”が求められるようになってきています。そのため、データの収集・加工・分析・可視化そして共有がオールインワンで可能なシステムが、トレーニングの現場で必要とされてきたのです。
これまでのバイオメカニクスや運動生理学やトレーニング科学等々の研究によって、さまざまなパフォーマンスや体力要素やトレーニングにかかわる指標の意味やそれらの関連性が明らかにされ、トレーニングやリハビリテーション過程における判断や意思決定において、どのような指標に着目するべきか、どのような指標のフィードバックがトレーニング効果を高めるか、といったことが明確になってきました。収集された生のデータのままでは、こうした判断をすることはできませんが、これまでの実践的な科学研究が明らかにしてきたデータ加工の仕方や分析方法によって、意味のある指標が何なのかが明らかにされつつあります。
身体運動のメカニズムを追求することを目的とした科学研究のためのデータではなく、得られたデータからすぐに何らかの判断や意思決定をすることを目的とした指標がただちに可視化されることが必要とされているのです。また、単一の運動能力や機能に関する指標からだけでは、全体的な判断や意思決定をすることはできません。ウェイトトレーニングに関する筋力やパワーや挙上スピードだけでなく、バランス能力やジャンプにかかわる能力、柔軟性、回旋運動における可動域やスピードといった他のさまざまな指標を複合的に見ることによって、目的とするパフォーマンスにつながる能力の向上にとって何が必要かを知ることができるのです。
ですから、これからの測定機器に求められるのは、各種の運動能力の測定のためにあれこれの別々の機器を必要とせず、トレーニング現場や遠征先でもシンプルにアクショナブルなデータがすぐに取得でき、迅速な判断と意思決定に使えるシステムだということができます。
2.OUTPUTとは
2013年、アイルランド国立大学ダブリン校において、スポーツサイエンティスト、理学療法士、エンジニア、そしてデータサイエンティストによる学際的研究のプロジェクトが開始しました。その目的は、エリートレベルで培われてきたスポーツサイエンスの手法、特にケガのリスクを減らし、競技レベルを向上させるために必要な客観的な測定と評価を広くスポーツ現場で応用できるようにすることでした。
そのため、最新のテクノロジーを駆使したよりシンプルかつポータブルなデータ取得のためのセンサーの開発と、トレーニングやリハビリテーションにおいて本当に必要なデータにすぐにアクセスできるアプリの開発、そしてクラウド上でアスリートのデータを管理し複合的に分析し可視化し共有することで、的確な判断や意思決定が迅速に行えるシステムの開発が行われました。
こうして昨年秋に完成したのが、OUTPUTというシステムです。
(1)センサー
OUTPUTのセンサーは、ホッチキス針の箱くらいの大きさで重さはわずか21g。3軸加速度計、3軸ジャイロスコープ、3軸地磁気計を内蔵し、最大サンプリング周波数500Hzで8時間連続使用が可能な充電式バッテリーで稼働します。 この小さなセンサー1台だけで、異なるカテゴリーの測定が可能です。測定する種目やテストに応じて、長さや形状の異なる5種類のストラップで、バーベルや身体各部に装着し、OUTPUTキャプチャーと呼ばれるアプリ(iOSとアンドロイドに対応)でデータを取得します(図1)。
(2)測定カテゴリー
OUTPUTでデータ取得できるパフォーマンスとトレーニングとリハビリテーションのための測定カテゴリーには以下の11種類があり、後述するマニュアル入力のカテゴリーが2項目あります(図2)。
① バランス
片脚と両脚、そして両足を前後に配置し一方の踵と他方のつま先を接触させたタンデムスタンスと呼ばれる、左右の支持面の狭い肢位で行う静的なバランス能力の測定カテゴリーです。センサーを下背部に装着し、測定時間を任意の10秒とか20秒に設定し、開眼または閉眼でバランス姿勢を保ちます。得られる指標は、バランススコアと呼ばれる独自の指標で、3軸加速度センサーで取得された前後左右上下の動きで生じた全加速度値の分散です。
これは、近年、脳震盪後のリハビリを客観的に進めていくための感覚運動コントロール機能の評価として注目されている指標です。
② スタビリティー
プランク、サイドプランク、腕立て姿勢またはプランク姿勢から一方の腕と対側の脚を床から浮かしてまっすぐに伸ばした姿勢を取るスーパーマンプランク、膝を90度に曲げて立てた仰臥位から、主として臀筋とハムストリングによって腰を浮かし、膝から肩までを一直線に保持するグルートブリッジ(両脚または片脚)姿勢を維持する能力を測定します。これもバランスと同じように、任意の時間におけるバランススコアで評価します。
スタビリティーは一定の時間その姿勢を保持できればよいだけではなく、いかに体幹を安定させるかという能力ですから、時間の長さではなく、こうした指標で評価することが必要であり、そのことで単に時間の長さとは異なる体幹安定性の評価が可能となります。
③ 挙上速度
いわゆるVBTのための測定です。センサーをバーやダンベルに取り付け、さまざまなフリーウェイト種目(41種目)におけるVBTを行うことができます。使用する負荷の重さを入力し、リアルタイムフィードバックで用いる速度を、ピークとするか平均とするかを選び、目標速度でフィードバックする場合はその上限と下限を入力、速度の低下率でフィードバックする場合はそのパーセンテージ(セットの1レップ目かベストか)を入力します。
速度とパワーと筋力の最大値と平均値、それらの体重に対する相対値、仕事量の中から見たい指標を選択すると、リアルタイムグラフと共に数値データが表示されます。ベスト、ワースト、それ以外が色別で示されるので、動作感覚が残っている間に一目で何レップ目がどうだったのかがすぐにわかり、動作や意識するポイントの修正に役立ちます。
④ 角速度
上述の挙上速度は、垂直方向への移動距離を、それに要した時間で割った速度ですが、この角速度というのは、変化した関節角度の大きさをそれに要した時間で割ることで得られます。単位はdeg/secとなります。
従来の挙上速度を用いるVBTに対して、Angular VBT(A-VBT)と呼ばれ、OUTPUTによって世界で初めて採用された画期的な指標です。例えばスクワットでは、大腿部の外側にセンサーを取り付けます。そして、膝角度が80°まで屈曲したボトムポジションから、0.5秒で伸展し立位の膝角度が180°/sだったとすると、100° ÷0.5sec で、200°/s がこの場合の角速度となります。
A-VBTのカテゴリーではこの角速度と同時に、関節角度それ自体もリアルタイムで表示されます。ですから、動作が目標とする可動範囲で行われているかを確かめながら、角速度の変化を追えることになります。
一般的なVBTで、バーにセンサーを付けてスクワットを行うと上半身のあおり動作で速度が変化するため、フォームが乱れると指摘されることもありましたが、このA-VBTであれば、動作をより安定させた条件で挙上のための関節運動速度をモニターすることができます。また、ボート競技や自転車競技のような関節角度それ自体の角速度を問題とする競技では、直接的に重要な意味を持ってきます。
OKCのニーエクステンションやカールでは下腿外側に、カーフレイズ等足関節エクササイズでは足の甲にセンサーを取り付けます。また、ベンチプレスやプルアップのような上半身種目では上腕部の外側に取り付けます。
⑤ 筋持久力
プルアップ、プッシュアップ、インバーテッドロウ、カーフレイズ、自体重スクワット、グルートブリッジといったエクササイズにおける筋持久力の評価を、可動範囲が狭くならないように関節角度をモニターしながら、平均またはピークの大きな角速度を何レップ維持できるかによって評価するテストのカテゴリーです。エクササイズに応じて、上腕や大腿部側面にセンサーを装着して測定します。目標とする可動域を設定しておくことで、角度が狭くなると警告を出してくれるように設定できますから、常に可動域を意識したトレーニングにお薦めです(図3)。
このカテゴリーには、2010年にAsklingによって提唱された、ハムストリングの肉離れからの競技復帰が可能かどうかの判断に使われる“アスクリングH-テスト”1)も用意されています。患側脚の大腿部外側にセンサーを装着して仰臥位になり、膝伸展位で股関節の最大屈曲位までできるだけ速く脚全体を持ち上げる運動を反復します。ハムストリングに痛みや不安感がなく、目標とする角度と角速度が達成できるかどうかが競技復帰の目安となります。
⑥ 可動域
いわゆるモビリティーのカテゴリーです。足関節の底/背屈と内/外反、頸部の屈曲/伸展と回旋、股関節の内/外旋、肩関節の屈曲と内/外旋、体幹の回旋といった基本的な可動域測定の他、SLRテストや仰臥位90/90膝伸展テストといったハムストリングの柔軟性テスト、さらに、野球選手をはじめとするオーバーヘッドアスリートにおけるリスク要因である肩関節内旋可動域制限(GIRD)を検査するテストが含まれています。
また、スローイングやバッティングにおける軸足のローディングのための股関節の内旋と、踏み出し時に腰が開かないようにするための股関節内旋に制限があるかどうかをテストするToeTap Test2)といった競技特性を踏まえたモビリティーのテストも含まれています。
ゴニオメーターを用いてマニュアルで角度を測るのではなく、センサーを四肢の適当な位置に固定して自動的に測定するため、代償動作さえコントロールできればきわめて再現性の高い客観的な値が短時間で得られるのが特徴です。
⑦ スラム・スイング&スロー
各種のメディシンボール投げ運動、ケトルベルのスイング運動、ランドマインプレスに対応したカテゴリーです。センサーは手首の背部に装着します。
メディシンボール投げは、立位と座位のチェストパス、仰臥位のチェストスロー、立位と片膝立ちのオーバーヘッドスロー、バックワードスロー、さらに回旋系のメディシンボール投げ運動としては、ローテ―ショナルスロー、ローテ―ショナルチェストパス、膝立ちや座位でのローテ―ショナルスロー、すくい上げるようにして斜め上方向に投げるローテ―ショナルスクープスロー、そしいて回旋動作から頭上に持ち上げたボールを地面に叩きつけるローテ―ショナルスラムといった多くの種目に対応しています。
また、バッティング動作のような股関節と体幹の回旋動作から肩の高さに両手で構えたボールを砲丸投げの要領でボールを突き出して投げるヒッタースタイルショットプットも測定可能です。股関節と体幹の屈曲動作に対応した種目としては頭上から床に叩きつけるダウンワードスラムや、シットアップチェストパス、シットアップオーバーヘッドスローが用意されています。 表示される指標は、ピーク速度、ピークパワー、ピーク加速度となっています。メディシンボール投げのエクササイズは全て、ボールの投射を特徴としていますから、ボールがリリースされる瞬間または直前に発生するピーク速度が最もわかりやすい数値ですが、動作の開始からリリースまでに発生する力に対応する加速度の最大値や、動作中の加速度とボールの質量の積である力に、その瞬間の速度を掛けることで得られるパワーの最大値も詳細に動作特性を分析するためには役立つ指標であるといえます。
これまでも、ボールにセンサーを内蔵させた専用のメディシンボールがありましたが、OUTPUTでは、前腕にセンサーを付けるため、使用するボールの重さ、サイズ、材質は何でもよく、ボールの劣化を気にする必要もありません。また従来のものに比べて非常に多くの種目に対応していますから、メディシンボールを用いたトレーニングや、テストを頻繁に行う指導者にとっては非常に有益なシステムであるといえます。
ケトルベルに関しては一般的なスイングエクササイズの他、シングルアームでのクリーンやスナッチといった種目、ランドマインプレスではパンチスローに対応しており、メディシンボール投げと同様のデータを取得することができます。
⑧ ジャンプ
両脚と片脚、腕振り有と無しのスクワットジャンプとカウンタームーブメントジャンプを単発もしくは連続で測定できます。シンプルに跳躍高、踏切速度、滞空時間、消費エネルギーが表示されます。 跳躍高(h)は滞空時間(T)を用いてh=1/8gT2によって計算されますが、踏切速度(v)も表示されますから、h=v²/2gによる跳躍高も計算できます。この2種類の跳躍高の差から跳躍動作の特徴について検討することも可能です。
⑨ 反応筋力
上記のジャンプは、主としていかに高く跳ぶかという能力の評価に用いるテストですが、反応筋力は、台の上から落下してすぐに跳び上がるドロップジャンプと、連続的なリバウンドジャンプにおける接地時間に対する跳躍高で計算されます。Reactive strengthindexの頭文字でRSIと呼ばれています。
RSIは、単なる跳躍高だけではなく、高く跳ぶために地面に力を加える時間(接地時間)に対する跳躍高の割合ですから、スプリントや素早い方向転換や素早いジャンプといったパフォーマンスのための潜在能力を評価することができるとされています。
両脚と片脚、腕振り有と無での、ドロップジャンプや連続リバウンドジャンプの他に、“10-5テスト”という種目も利用することができます。これは、さまざまあるRSIテストのより妥当で信頼性のある評価法として提唱されているもので3,4)、1回目のCMJの後に続けて連続10回のリバウンドジャンプを行い、それら10回のRSIのベスト5の平均値で評価するという方法です。すべてのジャンプの跳躍高、滞空時間、接地時間、滞空時間/接地時間、RSIを確認することができます。
⑩ コンタクト
OUTPUTの測定カテゴリーには、従来の類似した測定機器で採用されていた上記2つの一般的なジャンプテストとその評価方法とは別に、“コンタクト”というカテゴリーがあります。これは、両脚と片脚による、その場または前進と後退のポゴジャンプ、両脚と片脚によるハードルホップと縄跳び、バウンディングといったプライオメトリクスおよび、スプリントのためのテストと評価を行うことを目的としたカテゴリーです。
1歩ごとの接地時間、滞空時間、滞空時間/接地時間、最大加速度とこれらの平均値の他に、特徴的な指標として、“ドライブインデックス”というものが採用されています。これは主として、スプリントにおける加速やトップスピードの個人ごとの特徴を理解することを目的として注目されている指標で、接地時間/滞空時間で計算されます5)。RSIの基礎となる滞空時間/接地時間の分母と分子が逆です。これにはどういう意味があるのでしょうか。
スプリントでは、一方の脚の接地から離地までは股関節が伸展し、地面を離れた後は屈曲して最大屈曲位の後は接地のために伸展していきます。これが左右別々に繰り返されます。
離地の瞬間の垂直に対する股関節伸展角度はスプリンターによって異なり、15°から35°くらいの個人差があります。一方、最大屈曲位にある股間節の垂直に対する屈曲角度は、60°~75°くらいになります。股関節の伸展は主として水平の推進力を生み出すために必要で、屈曲は積極的な接地(アクティブランディング)の準備のために必要とされています。
すると股関節の伸展角度が大きく、屈曲角度が小さい選手(例えば伸展が30°に対して屈曲が65°)は、身体の後方への力発揮が優位となり、地面を押している時間(立脚時間)の割合が長くなる傾向にあります。逆に股関節の伸展角度が小さく、屈曲角度が大きい選手(例えば伸展が20°に対して屈曲が75°)という選手は、大腿部が高く上がり、身体の前方への力発揮が優位となり、その脚に関しては滞空時間(遊脚時間)が長くなる傾向になります。
これを滞空時間に対する接地時間の割合としてとらえようとする指標がドライブインデックスです。ほとんどのスプリンターではほぼ10歩目以降の接地時間は常に滞空時間よりも短いですから、この数値は基本的に1.0未満となりますが、身体の後方への地面を押す傾向が強い選手では、ドライブインデックスが0.8を超える数値となり(つまり接地時間が長くなる)、逆に離地後の身体の前面での大腿部の大きな運動をする傾向が強い選手は、滞空時間が長くなり、ドライブインデックスは0.7程度になります。
トップスプリンターの間ではこの数値にどちらが良いということはなく、あくまで個人の特徴、つまり速く走るための個人的な戦略を示すものであると考えられており、これ以外のストライド長やステップスピードを勘案しながら、フォームの修正やトレーニング課題の明確化に使うことができます。
ドライブインデックスについては別の機会に詳しく紹介したいと思います。
⑪ ノルディックハム
ハムストリングの肉離れを予防するためにはエクセントリック筋力の維持・向上が不可欠ですが、そのための有効なエクササイズであると考えられているノルディックハムストリングカール(NHC)6-8)におけるエクセントリック筋力の評価には、これまで足首にかかる力をロードセルによって直接計測する専用の装置が用いられてきました9)。
このNHCにおけるピークエクセントリック筋力は、HNCで上体を下降させていく間に、それまでコントロールされていた下降速度が急激に上昇する“ブレークポイント”と呼ばれる瞬間の角度(材料力学でいうところの“降伏点”や“破壊点”に相当)との間に高い相関関係のあることが示されています10,11)。筋力の強い選手ほど水平(90°)に近い70°~80°まで下降速度をゆっくりとコントロールできますが、弱い選手では30°未満で急激に速度が増し、倒れてしまいます。そこでOUTPUTでは、この角度を最大角加速度が生じる角度と定義し、NHCにおけるエクセントリックピークトルクの評価指標にしています。
表1には、これまでアイルランドのさまざまな競技選手で得られたブレークポイントのパーセンタイル順位表を参考のために掲示ました。 ノルディックハムのカテゴリーで、これ以外に表示される指標は、下降に要した時間と平均角速度です。
以上のように、従来であれば、別々の測定機器で行われていたさまざまな運動能力や機能の評価が1台のコンパクトなセンサーとそのアプリだけでシンプルにかつ高い精度でいつでもどこでも実施できるということは、今後のトレーニング指導やリハビリテーションにとっては画期的なことです。
さらに、従来の一般的なテストに加えて、最新の研究成果を反映したより高度な分析や判断に使える新たなテストや指標も利用できるという点が、OUTPUTの特徴であるといえます。
(3)データ入力
以上の11種類のカテゴリーに含まれる約1 8 0種のテストは、すべてOUTPUTのセンサーを用いて実施できますが、他の方法でないと取得できないけれども重要なテストの結果は別に実施し、そのデータをマニュアルでインプットすることになります。
これには例えば、各種のスプリントテストやアジリティーや持久走テスト、およびIMTPやハンドヘルド機器によるアイソメトリック筋力テストなどが含まれ、目的や種目に応じて自由に設定する必要があります。
(4)アスリート
いくら多くの種類のテストが簡単に実施できるといっても、アスリートは一人ひとりの個人であり、指導者にはその個人に対する個別の判断と意思決定が求められます。そこが、現場における測定・評価と、匿名の集団としてサンプルのデータを取得しその推計統計で母集団に対する結論を下すための研究における測定・評価との決定的な違いです。
ですから、前者の目的で使用するシステムには、アスリート個人のさまざまな運動能力や機能についての時系列的なデータにすぐにアクセスでき、それによる判断と意思決定がスムーズに行える必要があります。
その点で、OUTPUTは、アプリ内で設定したチームやグループに所属するアスリートごとの各種データにすぐにアクセスできグラフ化できるほか、対象とするテストのチームやグループ内のランキングデータもすぐに参照することができます。
個々のアスリートは、トレーニングセッションの前に、アプリ内のアスリートの画面に用意されているウエルネス調査を用いて、1)その日のトレーニング対するレディネス、2)メンタルヘルスレベル、3)フィジカルヘルスレベル、4)睡眠について、5段階でチェックできるようになっています。
次に説明するOUTPUTのHubというデスクトップソフト内で、個々のアスリートが自分のアプリでOUTPUTにアクセスできるように設定しておくと、他のアスリートに関する情報を見ることはできませんが、自分の情報だけには常にアクセスでき、ウエルネス調査に答えることや各種のテストを自分で実施することができ、それらの情報はクラウドによってすぐにHubに統合されます。
(5)より詳細な分析と判断のために
センサーとキャプチャーアプリで取得したパフォーマンスやトレーニングやリハビリテーションのデータを効率よく分析し、変化の傾向を追跡し、さまざまな判断や意志決定に役立てるためには、Hubと呼ばれるアスリートの人数に応じたサブスクリプション方式のデスクトップ用ソフトウエアを使用する必要があります。OUTPUTはこのHubなしにキャプチャーアプリを使用することができません。しかし、Hubによって、サードパーティのアスリート管理ソフトやエクセル等を介さずに、登録したアスリートのコンディションを様々なグラフやテーブルによって一目でチェックすることができます。1つのグラフに複数の異なる指標を同時に表示させることができますから、単一の指標だけでは見えないより多角的な視点からの判断も可能となります(図4)。
チームあるいはチーム内の特定グループ(学年、ポジション、カテゴリー等)の中で個々のアスリートがどのような位置にいて改善課題は何か、あるいはそれら特定グループ間でどのような違いがあり、それはどの指標に関してなのかといった比較をすることで、根拠のあるさまざまな客観的な判断が可能となります。
トレーニングや測定において選手のやる気を喚起することは、多くのトレーニング指導者の望むところです。ライブでのリーダーボードによって、競争的な雰囲気を作り出し、最大努力する意識を高く維持させることができることはよく知られています。Hubのリーダーボードは最大で4つ作成することができます。異なるランキングや比較のための基準や指標を用意することで、自分自身をより冷静に見つめ、より高いモチベーションを引き出すことが可能となります(図5)。
(6)アカウントとセンサーとアプリとHubの関係
1台のスマホやタブレットと接続できるOUTPUTのセンサーは1台ですが、アプリとHubにはサブスクリプションに対応した最大人数が登録でき、そのセンサーですべての選手のデータを取得することができます。また、1つのアカウントで使用できるアプリとHubは無制限ですから、1つのセンサーで取得したデータは、その取得に使用したスマホやタブレットだけでなく、そのアカウントで入っているすべてのスマホややタブのアプリとHubに直ちに共有され、既存データと統合されます。ですから、1つのアカウントで複数のセンサーを使ってさまざまなテストやトレーニングをチーム内で同時進行しても、すべてのアプリとHubにすぐにデータが反映することになります。
まとめ
以上のように今回紹介したOUTPUTは、パフォーマンス、トレーニング、リハビリテーションにおけるさまざまな最新の科学的なテストを1つのセンサーと1つのアプリだけでシンプルでポータブルに、かつ高精度で実施でき、すぐにさまざまな判断や意志決定に使えるアクショナブルデータを取得できる画期的なシステムであることが理解いただけたと思います。
今後、こうしたシステムの開発と利用は世界中でさらに加速化することが予想され、スポーツのトレーニング指導やリハビリテーション分野のデジタルトランスフォーメーションはますます拡大していくと思われます。今後それらをいかに取り込み推進していけるかがこの世界で成功するための鍵となるといえるでしょう。
参考文献
1) Askling CM, Nilsson J, Thorstensson A. A new hamstringtest to complement the clinical examination before returnto sport after injury. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc.18(12),1798–1803, 2010.
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