トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価 #9 インターバル走2
2023/03/09
トレーニング指導者のためのパフォーマンス測定と評価 #9 インターバル走2
この冬から取り組みたい合理的インターバル走トレーニング法
#9 この冬から取り組みたい合理的インターバル走トレーニング 記事PDFはこちらから
※上記記事はJATI EXPRESS No.92に掲載のものです。
【概要】
・インターバル走トレーニングのプログラム変数とトレーニング計画
・周回コースでのスピードコントロール
・最大スピード能力の個人差を加味したランニング距離の設定
・最大スプリント速度(MSS)の測定
・3.6秒メトロノーム
・MAS測定・インターバル走トレーニング専用ビープ音発生装置SportBeeperPRO
・コーチ本来の仕事
[ある程度走れるようになった段階で、持久的能力を正確に評価しながら着実に走能力を向上させ、受傷前のレベルに効率よく復帰させるためには、持久走のトレーニングにおける正確なペースコントロールが不可欠となります。]
前回はMASをフィールドで正確に測定するための方法と、MASの相対的速度に基づいてインターバル走トレーニングを実施する方法を紹介した。今回は、まず前回の復習をし、周回コースでのスピードコントロールや最大スプリント速度(MSS)の測定法など、さらに詳しく持久的走能力の測定と評価法について解説する。
前回の復習
最初に前回のポイントをおさらいします。
今日、ウェイトトレーニングやジャンプトレーニングでは常識となっているトレーニング強度の科学的・合理的な設定方法が、なぜか従来の持久的走能力のためのトレーニングでは採用されてきませんでした。そもそも、選手一人ひとりの能力を最大限に発達させるためには、個人ごとに最大能力を測定し、その相対値〈%〉で強度を設定することが必要ですが、持久的走能力トレーニングでは、その強度となる走速度はほとんどコントロールされず、選手の主観的な“全力”に任されるか、一律の絶対的速度が全員に強制的に適用されてきました。
こうした事態を改善するためは、まず一人ひとりの選手の最大有酸素性走速度(MAS)を正確に測定すること、そしてその相対的な速度でインターバル走トレーニングにおける走速度を個別に設定することが最も理にかなった強度設定法です。
前回はこのMASをフィールドで正確に測定するための方法と、MASの相対的速度に基づいてインターバル走トレーニングを実施する方法を紹介しました。MASを測定するテストとして、VamEvalテスト、20mシャトル、45-15VMA、30-15IFTの実施法を説明しました。これらで得られた個人ごとのMASに対する相対的強度(%)から個人ごとの走速度を割り出し、その速度で一定の時間(例えば10秒)で走り切るべき走距離を計算し、選手ごと(あるいはグループごと)に異なる走距離をマーカー等で示し、指定した時間内にその距離を正確にカバーさせるというインターバル走の方法を詳しく説明しました。こうすることで、選手一人ひとりが納得してその距離を決められた時間内で走り切ることにチャレンジすることができます。
こうした合理的なトレーニングを効率よく行うためのツールやデバイスについても紹介しました。フィールドで速度を正確に一定時間ごとに漸増させて行くために設定した距離をカバーさせるための運動時間、一定時間の休息を挟む間欠性テストでは運動時間と休息時間を正確に反復して知らせるためには、MAS測定とインターバルトレーニング専用に開発されているビープ音発生装置を用いることが極めて有効です。
もちろん、無料アプリと市販のスピーカーでテストを行い、ストップウォッチとホイッスルでトレーニング時間を管理することもやってやれなくはありません。しかし、実際にやってみるとわかりますが、広いフィールドでは小型のスピーカーでは音が遠くまで届かず、トレーニングで全員にきちんと聞こえるような大音量で、ストップウォッチを見ながら少なくとも1/10秒まで正確に何回も何回も繰り返してミスすることなくホイッスルを吹く、それを週に何回も行うのは決して楽ではありません。コーチにはもっと重要な仕事があり、時間の管理とホイッスルの合図はこうしたデバイスに任せて、コーチはその重要な仕事に集中するべきだということを強調しました。
今回の内容を正確に理解していただくために、前回の記事をまだお読みでない方はぜひそれを先に読んでからこの記事を読んでいただければと思います。
1.インターバル走トレーニングのプログラム変数とトレーニング計画
インターバル走トレーニングのプログラムを作成するうえで操作するべき変数は以下のようにまとめることができます。
①強度:MASを基準としてその何%強度のスピードで走るか
②走時間:何秒間走るか
③走コース:一方向、往復走、1.5往復走等々
④休息時間:何秒間休むか
⑤休息強度:完全レストかジョッグによるアクティブテストか
⑥レップ数:何回反復するか
⑦セット数:何セット行うか
⑧セット間レスト:セット間の休息時間
⑨サーフェイス:天然芝、人工芝、コート、アスファルト等々
⑩総トレーニング時間:すべてのセットを完了するのに要する時間
以上のプログラム変数を操作して、一定期間のプログレッションを計画します。その一例が表1です。8週間に週2回実施、90%MASから105%MASに強度を上げていきます。走る時間は常に10秒ですが、休息時間は最初13秒から始め最終的に8秒に短縮させます。レップ数とセット数も徐々に増やしセット間レストも強度が増すにつれ3分から2分へと短縮させます。4週間後に再度MASをテストし、個人の走行距離を再設定することもあります。
2.周回コースでのスピードコントロール
インターバル形式ではなく、200~400mのトラックでの周回コースにおいて一定のペースで走らせるためには、各選手のスピードに合わせてマーカーやコーンの距離を変えます。その場合は異なる色でそれぞれのスピードがわかるようにします。例えば200mトラックで時速17㎞、18㎞、19㎞、20㎞の4パターンつくるとします。ビープ音を5秒ごとに鳴らすとすると、5秒でカバーするべき距離は、それぞれ23.6、25、26.4、27.8mとなりますから、ウォーキングメジャーを使ってコース上にそれぞれ異なる色のマーカーかコーンを置いていきます。
この例では時速18㎞は25mなのでちょうど8分割した区間となりますが、残りのスピードでは1周の最後は距離が短くなります。その部分はインターバルとして少し歩くようにして調整します。この設定で5周すると1000mの持続走トレーニングとなります。
3.最大スピード能力の個人差を加味したランニング距離の設定
走速度の設定は、基本的にはこれまで説明してきたように、走る時間に合わせた距離をMASに対するパーセンテージによって設定します。しかし、MASの100%を超える105%や110%あるいは115%といったハイスピードでインターバル走トレーニングを実施する場合には、MASだけではなく、個人ごとの最大スピード能力の差を考慮する必要があります。
例えば図1のように2人の選手のMASがどちらも時速18㎞だとしても、最大スプリント速度(MSS: MaximumSprint Speed)が、A選手が時速28㎞なのに対し、B選手が33㎞だとすると、A選手は28-18=10なのに対して、B選手は33-18=15となるので、B選手の方が走速度において時速5㎞分の余裕があることになります。
この最大スプリント能力は有酸素性のエネルギー供給系とは違い、無酸素性のエネルギー供給系によって賄われるスピード能力ですので、MSSとMASの差は、「無酸素性予備スピード」と呼ばれています。Anaerobic Speed Reserveの略でASRといいます。
もしこの2人がMASの110%のスピードである時速19.8㎞でトレーニングするとなると、2人のMASである時速18㎞を超えるこの1.8㎞というスピードは、A選手にとっては、時速10㎞のASRに対して18%ですが、B選手のASRは時速15㎞ですから12%となり、B選手の方が余裕を持って走れることになります。したがって同じ時速19.8㎞でトレーニングすると、A選手にとってはきつく、B選手にとっては余裕のあるスピードという差が生まれてしまいます。
そこで、MASの100%を超えて強度設定する場合は、“MAS+ASRのパーセント”によって速度を決定する必要があります。例えばASRの10%で強度を設定すると、A選手は時速18㎞+時速1㎞=時速19㎞となり、B選手は時速18㎞+時速1.5㎞=19.5㎞となり、この速度に基づいて10秒なら10秒で走れる距離をそれぞれ設定することになります。
4.最大スプリント速度(MSS)の測定
ASRを知るためにはMSSを測定しなければなりません。MSSを正確に測定するためには光電管を用います。10秒台前半の記録を持ち、時速38㎞を超えるような最大速度に到達する大学の100mスプリンターでは、その速度に到達するのは30m~60m付近ですが、その95%の速度には20~30m地点で到達します。サッカーやラグビーなどのフィールドスポーツ選手では20~30mでトップスピードに到達します。
ですので、図2のように、スタート地点から20~30mの地点に光電管を10m離して置き、そのタイムから時速を計算します。WittyやDashrでは、秒数の代わりに時速をリアルタイムで表示できますので、面倒な計算をすることなく、選手のMSSをすぐに知ることができます。
5.3.6秒メトロノーム
3.6秒メトロノーム? インターバル走で3.6秒? 聞いたことがないという人が大部分だと思います。
これは、フランスのパリサンジェルマンやマルセイユ、レンヌといった強豪サッカークラブのフィジカルコーチを歴任したG.Gason氏が開発したペースコントロー法です。例えばランニングそれ自体が禁忌であった選手が走り始めるとき、最初は様子を見ながら歩くくらいのゆっくりとしたジョギングから始め、速度は特に気にすることはないでしょう。
しかし、ある程度走れるようになった段階で、持久的能力を正確に評価しながら着実に走能力を向上させ、受傷前のレベルに効率よく復帰させるためには、持久走のトレーニングにおける正確なペースコントロールが不可欠となります。
しかし、インターバルトレーニングや間欠性テストを行おうとしても、以前のペース感覚を失っており、持久力も低下している選手にとって、20mや25mといったマーカー間の距離でペースをコントロールすることは容易ではありません。その結果、間に合わなかったり、早すぎたり、フライングをして帳尻を合わせたりといったことが生じます。そうした不都合を解消するのが、3.6秒メトロノームです。
実は、時速何㎞という数字と3.6秒間に進む距離(m)は全く同じ数字になるという面白い関係があります。例えば時速10㎞で走ると、3.6秒で進む距離は10m、時速15㎞なら15m、時速18.5㎞なら18.5m、そして時速21㎞なら21mという具合です。時速を3600秒で割って秒速を出し、それに3.6秒をかけるとこの数字になります。
ですから、まずは時速10㎞から始めようという日には、10m間隔でマーカーを並べ、3.6秒ごとにビープ音を鳴らします。選手はそれに合わせて10mのマーカーを通過していけばいいのです。次の週から時速11㎞にスピードアップするなら11m間隔でマーカーを並べればいいのです。時間間隔が短く、距離も短いのでペースコントロールが簡単です。
MASとインターバル走トレーニング専用ビープ音発生装置であるSport-Beeper PROには、この3.6秒メトロノームトレーニングがあらかじめ組み込まれており、ランニング時間と時速を選べば、トータル距離と必要なマーカー数が表示されますので、メジャーとマーカーを持ってすぐにトレーニングコースが作れます。 図3には、時速12㎞で10秒間のトレーニングをする例を示しました。スタート後3.6秒で12m、次の3.6秒でこの倍の24mまで移動します。時速12㎞のスピードで10秒間走ってカバーするべき距離は33.3mですから、残りは9.3mとなります。
この例では、スタートから12m、24mにマーカーを置き、ゴールのマーカーを33.3mに置きます。ゴールから逆に33.3m地点にもマーカーを置き、往復コースで走ります。行きと帰りでスタート位置を変えることで、うまくスピードコントロールをしながら走れるようになります。スピードに応じていくつかの異なるコースを設定すれば、大人数のチームでそれぞれ異なるスピードでも同時に行うことも可能です。走るスピードがそれぞれ異なっていても、3.6秒ごとに信号が発せられている状況に変わりはありません(図4)。
6.MAS測定・インターバル走トレーニング専用ビープ音発生装置SportBeeper PRO
SportBeeper PROには、世界中で行われているほぼすべてのMAS測定のためのテストと様々なインターバル走トレーニングのためのビープ音発生機能が組み込まれています。PCやスマホやスピーカーを必要とせず、単体で測定からトレーニングまでをカバーする専門装置として様々な種目のトップチームやアスリートによって使用されています。
デフォルトで用意されているテストやトレーニングは編集することができ、自由に選手のレベルや目的に応じて、テストやトレーニングを独自に作成し保存しておくことができます。
例えば図5には、2サイクルインターバル走の設定画面を示しています。10秒走って20秒休み、続いて5秒走って25秒休むという組み合わせを10回繰り返すトレーニングです。5秒走は10秒走よりも走速度を高く設定します。このようなフィールドスポーツ特有の異なるスピード、距離、持続時間、休息時間が繰り返される間欠的なトレーニングも作成することができます。さらに図の右側に示されているように、10秒や5秒でカバーするべき距離もメジャー機能で呼び出すことができますから、簡単にマーカーを設置することができます。
SportBeeper PROは広いサッカー場やラグビー場の隅々までビープ音が届くように105デシベルという自動車のクラクションと同じレベルの大音量が出るように作られています。ですので、自宅で機能を試したり、体育館やトレーニングルームで使用したりする際には専用の消音カバーをつけ忘れないように注意が必要です。
7.コーチ本来の仕事
SportBeeper PROのような装置を活用することにより、コーチは本来の仕事に集中することができるようになります。フライングをしていないか、決められた位置でターンをしているかといった管理はもちろん、個々の選手のランニングフォームを修正することや表情を観察することも重要です。いつもよりきつそうな選手に対しては1つ短い距離で走らせたり、短期間で力をつけてきた選手には1つ長い距離で走るよう指示したりすることもできます。様々な言葉がけで選手を鼓舞しモチベーションを引き出すこともできるでしょう。
ぜひこの冬は、選手に理不尽だと言わせず、自ら積極的に取り組むインターバル走トレーニングを実施して、来シーズンに向けた持久力や反復スプリント能力の向上にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。